ザーーーーーー
この日は、
雨が降っていた。
嫌気がさすほどの雨音に、
微かに霧がかかっていた。
街はとても静かだった。
そんな中に2人の声が響く。
1人は男。
コートを着ているやせ細った中年の男だ。
もう1人は幼女。
赤いフリル付きのドレスを着て元気そうに金色の髪を揺らしている。
───そんな騒がしい雨の中。
一人の少女が、
傘をさして立っている。
男はある方向をじっと見つめている。
その先には、傘をさして立っている少女。
先程から話しかけている幼女に返事をしないまま、男は少女に向かってゆっくりと足を踏み出す。
1歩、また1歩………
男はただ少女を見つめて歩いている。
───そしてついに男が、
少女の後ろまで足を止めた時。
少女は振り返りざまに、
肩に乗せた傘を自身の体の前へくるりと回す。
その全ての動作が美しく、
時間さえ止まったかのように見ているものを魅了する。
───チリン。
小さく鈴の音が聞こえたかと思えば、
男の目の前に、
もう少女はいなかった───
驚く2人を置き去りに、
街には、ただしんしんと雨が降り続いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。