事の発端はこの一言だった。
私、あなたの名字あなたには愛してしがない彼氏がいる。
すごく優しくてすごく好きだった。でも心のどこかでいつも何かが引っ掛かっていた。
彼から好きと言われたことは一度もなく、ましてや
昔、乙骨君には好きな子がいたらしい。私達は付き合っているけれど
昔好きだった子が今でもまだ好きなんじゃないかと不安を募らせていた。
ほら、今だって。『好き』の一文字も呟かない。
ああ、私ってなんとも思われてないんだ。一気に悲しみの感情が押し寄せた
視界がぼやけて大粒の涙が頬を伝う。
別れを告げて走り出す。好きな人が私と一緒にいて無理するくらいなら、
突放された方が何倍もマシ。片思いで終わっていればこんな思いもしなくて済んだのかな。
走り疲れてその場に座り込む。
アリの行列を見ながらぼやく。
これまで付き合った人たちも数週間過ごせばいつもこんな感じに散っていく。
思えば長続きしたことなんてないのに、恋するたびに今度こそって。
結果は分かり切ってるのにね。…思い出したら涙出てきた
ああもう本当嫌になる。泣き虫な自分が、すぐ好きになる自分が。
俯いてアリの数を数える。いいなぁ、アリさんは。
ほかの事は何も考えずに食べ物を運ぶだけにできた人生
あーなんかイライラしてきた。なんで私が乙骨くんのこと気にしなくちゃいけないわけ?
あんな女誑しのどこを好きになったんだか。
あーあ、今回も長続きしなかったなぁ。
恋愛なんてあきらめて余生を楽しく過ごそうか。
そうだ、呪術師の寿命なんてわからない。なら楽しく過ごしていたほうがいい
くだらないことを考えていると隣でドサッと音を立てて誰かが座った。
そう言って笑いかけてくる乙骨くんに苛立ちを覚えた。
思っていたことを一度吐き出してしまえば、もう何度吐き出したって同じ。
全て口から言葉の釘となって乙骨くんに刺さればいい。
『乙骨くんなんて嫌い』
その一言で黙りこくっていた彼はしゃべりだした。
今更じゃん
言い訳?辞めて聞きたくない
…他の人のことばっかり
言ってくれれば私も…
『好き』じゃなくて『愛してる』
その言葉を聞いただけでもう満足で優越感に浸る。
大粒の涙が頬を伝う












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!