それは、あまりにも突然だった。
恵の姉、
**伏黒津美紀**が倒れたのは。
原因不明の昏睡。
外傷もない。
呪力の痕跡も、はっきりしない。
ただ――
“呪いに触れた”としか言えない状態。
あなたと五条は動いた。
資料を洗い、
古い呪詛記録を辿り、
高専の蔵書も、御三家の禁書も調べた。
だが、
あなたは、眠る津美紀の手をそっと握った。
温かい。
生きている。
けれど――
目覚めない。
そう言いながらも、
確証はなかった。
何も、掴めない。
最強であっても。
私 自身の十種影法術が完全体であっても。
出来ないことは、ある。
ただ、
寝ている彼女を見るしかなかった。
規則正しい呼吸。
穏やかな顔。
まるで、
悪い夢を見ているだけのように。
それから時が流れた。
恵は高校生になり、
呪術師になった。
任務をこなし、
傷を増やしながら。
強く、静かに。
ある日。
一人で病室に入る。
白いカーテン。
静かな機械音。
ベッドに眠る姉。
少しだけ、視線を逸らす。
弱い顔は、見せたくない。
小さく、吐き捨てるように。
その声は、
怒っているようで。
どこか、寂しい。
拳を握る。
爪が食い込む。
それでも、泣かない。
泣いたら、
負ける気がするから。
続きは、言えなかった。
守ると言ったのに。
守れなかった。
守る力を、今さら手に入れて。
遅すぎる。
病室の外。
あなたは黙って立っていた。
五条も、何も言わない。
ただ、
あの少年が背負う重さを知っている。
それは誓い。
禪院を壊すよりも、
誰かを守るよりも。
優先順位の一番上にある願い。
部屋の中。
恵は最後に一度だけ振り返る。
眠る姉は、変わらない。
でも。
今度は、はっきりと言った。
静かにドアが閉まる。
春はまだ、
目を覚まさない。
けれど。
その日から。
伏黒恵は、
ただ強くなるためだけに生き始めた。
それが、伏黒恵という男の覚悟だった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。