1942年、冬。ルビャンカ監獄の地下。
裸電球がチカチカと不吉な音を立てる取調室で、二階堂ヒロは苦しんでいた。
「…同志スターリン。本当に私は正しいのか?」
(いや、今はそんなことを考えている場合ではない)
完璧にアイロンの当たったNKVDの制服。
ヒロは感情を一切排した私(わたし)として、目の前の書類をめくる。
「ヒロ。同志スターリンの論理、最初から破綻していたのではないですか。……ねえ、もう掃除の時間にしませんか?」
傍らに立つユキもまた、同じ私として静かに、冷静に同意する。
「これが終わったらな」
まだこの頃の二人には頼れる戦友も、救いも、なにもなかった。
「ま、待て! 私は忠誠を誓っている! 誤解だ!私には家族がいるんだ!だからどうか…助けてくれ…!いや…助けてください!」
這いずり回り、靴に縋り付こうとする男を、ヒロは汚物を見るような目ですらなく、ただの「処理すべきデータ」として見下ろした。
「誤解などありません。……貴方には、この世界から消えてもらう」
事務的な銃声。
倒れ伏した「害虫」を見ることなく、ヒロは手袋を直した。
「……ユキ。次の害虫を連れてきてくれ。……私の時間は、正義のためにのみ存在する…」
地下室の窓からは、まだ空の色すら見えない。
ましてやシベリアだと言うのに、そこには雪(ユキ)の一片すら届いていなかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!