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第9話

消えた綴


 私は約束通りつづるむかえに行くため、さらには、彼の寝顔を一目見るために早起きをした。

 綴の手作りおにぎりも楽しみだけど、それは寝顔を見た後にでも一緒に作ればいい。好奇心こうきしんではない、ちょっとした下心を抱いて私は彼の家へと向かう。

高槻 空央
高槻 空央
おどろいちゃうかなぁ?
けど、すこーし覗いたらすぐ部屋出るし、ちょっとだけ~!)


 綴がもし起きてしまったらどんな顔をするのか想像すると、自然と顔がほころび足は弾むように歩みを進める。

 「森園」と書かれた表札を確認して戸をノックすると、中から駆けるてくるような足音が聞え、勢いよくそれは開けられた。

 戸を開けてくれたのは綴のおばあちゃんで、私を見るなり落胆らくたんするようにかたを落とした。しかし、すぐにまた顔を上げてすがりつく勢いで私の両腕りょううでを掴む。

綴のおばあちゃん
空央あおちゃん! つづるがどこにいるか知ってるかい!?
高槻 空央
高槻 空央
え? 私、今日約束してて、綴を迎えにきたんだけど……
綴のおばあちゃん
そんなぁっ! はぁ、……朝起きて部屋をのぞいたらいなくてね。もう出かけたのかと思ったんだけど、昨日着て行った浴衣ゆかたもないんだ。たぶん、昨夜から帰ってないんだよ。なにか心当たりはないかね?
高槻 空央
高槻 空央
き、昨日はお祭りの後に花火をして、……今日の約束もして、いつも通り分かれ道で……


 そこまで思い出して、私は嫌な予感がした。

 昨日、あの真っすぐな道を振り返った時、そこに綴の姿はなかった。

 夜遅いから走って帰ったのかと思ったけど、よく考えればそれでも見えないのはおかしい。


 見えない、その言葉でふと、私は妖怪を思い浮かべた。

高槻 空央
高槻 空央
(まさか、妖怪が関わってる? けど、こんなひどいイタズラする妖怪なんて……)
綴のおばあちゃん
こうしちゃいられない、交番にいってくるよ
高槻 空央
高槻 空央
あっ、おばあちゃん、待って!
落ち着こう。この町で誘拐ゆうかいなんてありえないし、小川からおばあちゃんの家までで危ないところもないから、怪我けがをして動けないっていうこともないと思うの!
綴のおばあちゃん
そ、そうだねぇ。けど、相談には行った方が……
高槻 空央
高槻 空央
私、心当たりがある場所を捜してくる!
とりあえず、綴が帰ってくるかもしれないから、おばあちゃんは家で待ってて
綴のおばあちゃん
……わかったよ。お願いね


 私は家を飛び出し、綴に案内した場所を1つ1つ回った。

 いつもの木陰こかげや学校、町の中、小川、森の中の湖。

 どこも綴との思い出であふれていて、私は目になみだめてしまう。

 けど、それが流れ落ちる前に自分の手でぬぐい取り、私はまた彼の姿を追って走り始める。










 それでも、綴は見つからなかった。


 日がれ始めたころには、町中の人が綴の捜索そうさくにあたっていた。
高槻 空央
高槻 空央
(これだけ捜してもいないなんて、……やっぱり妖怪が)



 信じたくはなかった嫌な予感が確信へと変わる。


 けど、見えない私には何にもできない。

 自分を責めることしか、できない。



 まだ先だと思っていた綴との別れを思わぬ形で迎えそうで、私は感情が抜け落ち、虚無感きょむかんに支配されそうになる。

 それでもまだ悲しみは感じるようで、目には溢れんばかりの涙が溜まり、それはついにこぼれ落ちてしまう。



 木陰で足を抱えて顔を伏せていると、そよ風がれたほおでるように吹いた気がした。

 それと共に聞こえてきた何かを引きずるような音に私は顔を上げる。

高槻 空央
高槻 空央
(なんでこんなところにビニール傘が……)


 ビニール傘を凝視ぎょうししていると、それは何かに引っ張られている様に引きずられていく。


 ひとりでに動くそれに、妖怪の存在を感じた私は縋る思いでたずねる。

高槻 空央
高槻 空央
綴のところまで、連れてってくれる?


 その言葉に応えるようにビニール傘は森の中を前進していき、私が追いかけるために立ち上がると頭上から赤い椿の花が落ちてきた。

高槻 空央
高槻 空央
こんな季節に……椿。
椿、祭り?


 「椿、あわれな奴め」

 ふと思い出したのは、町内看板の前にいた角の生えた妖怪の一言だった。

高槻 空央
高槻 空央
もしかして、椿は妖怪のこと?
なにか関係があるってことだよね


 その椿の花も何かの意思によってか、吹いてもいない風に乗るように動き出す。

 その後を追おうと一歩踏み出したところで、一つの不安が過った。

高槻 空央
高槻 空央
(綴は妖怪のせいでいなくなったかも知れないのに、信じていいのかな?)
高槻 空央
高槻 空央
(これも私をめるひどいイタズラだったら?)
高槻 空央
高槻 空央
(うぅん、そんなこと疑ってる場合じゃない。
今私にできるのは、この子たちを信じて付いていくことだけなんだ)


 私は綴と繋がれていない手を握り締め、森の中を進んでいくビニール傘と椿の花の後を追った。










 どれくらいたっただろうか。

 もう日は沈んでしまったが、私は暗い森の中を必死に歩き続けていた。

 ようやく月の光が差し込む開けた場所に出ると、私の目の前をほたるが通り抜けていった。


 町に流れているものより透き通った清らかな小川が見え、そこには溢れるほどの蛍が飛んでいる。



 月明かりと蛍のあかりを頼りに先へと進めば、花のついていない椿の木が幾本いくぼんも立ち並び、その中心にち果てた神社がさびしげに構えていた。

高槻 空央
高槻 空央
(本当にこんなところに綴がいるの?)


 その神社の目の前で止まってしまったビニール傘と椿の花を見て、意を決して戸に手をかけた時。

森園 綴
森園 綴
――。
高槻 空央
高槻 空央
綴!?


 戸を開けば、そこにはグレーの浴衣を身にまとった綴の後姿が見えた。

高槻 空央
高槻 空央
綴っ!!
よかったぁ、本当に!
なんでこんなところに……、早く帰ろう!!


 そう感動にうちふるえて語り掛けると、綴はゆっくりとこちらを振り返る。

 しかし、その表情は私が初めて綴に出会った時よりも、妖しく奇麗ではかないものだった。

森園 綴
森園 綴
お主は、誰だ?