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第2話

新しい朝
32
2022/10/05 15:00
 朝が来た。僕は決まって6時半に起き、カーテンを開ける。朝日を浴びながら軽くラジオ体操をしたら歯磨きをして顔を洗い、スキンケアをしてから制服に着替える。髪の毛を整え朝食を食べたら、婆ちゃんと母さんの写真に挨拶をして家を出る。これが朝のルーティンだ。もちろん、父さんへの連絡も忘れない。
空閑なお
空閑なお
婆ちゃん。おはよう。
婆ちゃん
婆ちゃん
あら、なお君おはよう。
学校初日からしっかり起きて偉いわね。
さぁ、朝ごはん出来ていますよ。
空閑なお
空閑なお
うん、ありがとう。頂きます。
 毎朝、僕の時間に合わせて朝食を作ってくれる婆ちゃんに感謝している。にしても、今日はいつもより豪華だな……。
空閑なお
空閑なお
婆ちゃん。今日はなんか豪華だね!
婆ちゃん
婆ちゃん
だって新学期初日だもの。
たくさん食べて頑張ってほしいの。
空閑なお
空閑なお
ありがとう。
でも今日は始業式だから
午前だけで終わるよ?
婆ちゃん
婆ちゃん
いいのよ。
なんでも始めは肝心だから。
空閑なお
空閑なお
そっか、ありがとう。頂くね。
婆ちゃん
婆ちゃん
えぇ。

婆ちゃんは僕の対面に腰を掛け、
どこか悲しげな顔で僕を見つめていた。
空閑なお
空閑なお
ん?婆ちゃん、どうしたの?
婆ちゃん
婆ちゃん
ねぇ、なお君。
お婆ちゃんね、心配していることがあるの。
空閑なお
空閑なお
え、何? 何かあった?
婆ちゃん
婆ちゃん
…………。

なおくんには、お友達はいるのかしら?
空閑なお
空閑なお
…………!!!
動揺して手が止まった。
空閑なお
空閑なお
え、いるよ?
でも急にどうして?
嘘をついた。大好きな婆ちゃんに、僕は嘘をついた。
婆ちゃん
婆ちゃん
だって春休みの間、一度もお友達と出掛けなかったでしょう?それだけじゃないわ。夏休みも冬休みも…なんなら、この家に来てから一度もお友達の話を聞いたことがないから、もしかしたらって心配で。
空閑なお
空閑なお
な…なんだ、そんなことか。それはただ友達とは家が遠くてなかなか会えないだけで、学校では話すし、休みの日は家で過ごすのが好きなだけだよ。あははは。

また嘘をついた。嘘笑も下手くそだ。
またひとつ、心に穴が空いた気がした。
婆ちゃん
婆ちゃん
そう?それならいいのだけれど……。でもね、なお君。高校生活も残り一年よ。お婆ちゃんはね、お友達と遊びに行ったり恋をしたり、色んな思い出を作ってほしいの。大人になった時に後悔しないように。
空閑なお
空閑なお
……後悔…………。
婆ちゃん
婆ちゃん
学生ってのはね、長い人生の中ではほんの一瞬の出来事なの。お婆ちゃんも家が厳しかったから、なかなか家から出してもらえなくて悔しい思いをしたわ。後悔していることだってたくさんある。なお君を見ていると、昔の自分を見ているようで辛くなる時があってね。あなたにはそんな想いをしてほしくない。なお君とお婆ちゃんは違うわ。あなたはどこへでも行けるし、行っていいのよ。だからね。最後の一年間は、精一杯に楽しんでね。

そう言いながら、僕の手を握りしめた。

その時の僕は、嘘をついた自分への嫌悪感と、心配させてしまった罪悪感と、そんな毎日を過ごしたいという願望と、過ごしたかったという悔しさと、その願いからは程遠い日々への絶望と、この学園に来た後悔と、逃げ出したい恐怖感と、今日からの期待と不安とで、頭と心はグチャグチャだった。







僕はこの後、婆ちゃんに何と言ったのか覚えていない。




空閑なお
空閑なお
行ってきます。






今日の挨拶は、笑えなかった。

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