朝が来た。僕は決まって6時半に起き、カーテンを開ける。朝日を浴びながら軽くラジオ体操をしたら歯磨きをして顔を洗い、スキンケアをしてから制服に着替える。髪の毛を整え朝食を食べたら、婆ちゃんと母さんの写真に挨拶をして家を出る。これが朝のルーティンだ。もちろん、父さんへの連絡も忘れない。
毎朝、僕の時間に合わせて朝食を作ってくれる婆ちゃんに感謝している。にしても、今日はいつもより豪華だな……。
婆ちゃんは僕の対面に腰を掛け、
どこか悲しげな顔で僕を見つめていた。
動揺して手が止まった。
嘘をついた。大好きな婆ちゃんに、僕は嘘をついた。
また嘘をついた。嘘笑も下手くそだ。
またひとつ、心に穴が空いた気がした。
そう言いながら、僕の手を握りしめた。
その時の僕は、嘘をついた自分への嫌悪感と、心配させてしまった罪悪感と、そんな毎日を過ごしたいという願望と、過ごしたかったという悔しさと、その願いからは程遠い日々への絶望と、この学園に来た後悔と、逃げ出したい恐怖感と、今日からの期待と不安とで、頭と心はグチャグチャだった。
僕はこの後、婆ちゃんに何と言ったのか覚えていない。
今日の挨拶は、笑えなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。