*莉犬side*
最低だ。
酔いに任せて………だなんて。
ただ単にあなたを傷付けてしまった。
現にこうやってあなたを泣かせて。
………最低だ、俺。
まだした事がないからって、こんな無理矢理に。
あなたの気持ちなんて考えられてない。
欲望の塊の俺はあなたと一緒にいてもいいのかな。
今まで一度もそんなことを考えたことが無かったけど、泣いている姿を見ているとそう思わざるを得ない。
これ以上ここに居てもまたあなたを傷付けてしまうかもしれない。
そう思って自分の部屋に入ろうとして、あなたのそばを離れる。
さっきまで感じていたあなたの温もりが、消える。
そして、扉のドアノブに手をかけたその時
─────一人に、しないで─────
『────ッ!?』
思わず振り返る。
そこには先程よりも大粒の涙を流しているあなたの姿があって。
遠くからでも震えているのが分かる。
そういえば─────────
*あなたって昔付き合ってた男の人に無理矢理……されたことがあるの。*
*莉都くんなら、そんな事はしないでくれるよな?……あなたを守ってくれるよな?*
*……もちろんです。お義父さん、お義母さん。任せてください。*
『っ、あなたっっ!!!!!』
急いであなたのもとへと駆け寄る。
ああ、なんで忘れてたんだろ……こんな大事な事。
怖がらせないように、そっと、そっと体を抱きしめる。
あなたの手が俺の背中にまわって、どこか安心した自分がいたり。
『莉犬………莉犬……!!!』
『ごめんね……俺が忘れてたから………ごめん。』
『ち、が…………莉犬のせいじゃ……』
何も言わず、ただただ抱きしめ続ける。
俺よりも小さく儚いあなたの体。
………いつか消えてなくなりそうで怖い。
ぎゅっと腕に力を入れたその刹那、
『…………して。』
『え?』
『け…して……あの人の感触全部………』
『…………………』
大きな瞳を潤わせて言われたその一言。
理性を無くすには十分だったと思う。
『あなた、ちゃんとこっち向いて』
『………………ん』
まだあなたのことを気遣えてる部分にかろうじて理性が残っている。
いつまでもつ、かな。
そっと自分の唇をあなたのに重ねる。
苦しくなったのか、息をしようと薄く口を開いた所に舌を入れ込む。
たまに漏れる吐息でこっちがどうにかなりそうだ。
俺の服をギュッとつかむあなたの手に力が込められたのが分かる。
*………はっ………好きだよあなた。愛してる………*
*……んっ………私も……愛してるよ…*
俺達の夜はまだ永い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!