第9話

約束
511
2020/10/04 08:43
俺が自己嫌悪?自己憐憫?で
打ちひしがれていると、水瀬の弟が唐突に言った。
あ、そういえば、お姉ちゃん、
今日もまた、父さんと母さん遅いの?
弟の問いに水瀬が答える。
あなた
うん、そうだよ。
最近忙しいらしくて···。
···そっか。
智咲
またぁ···?
そうか、水瀬の両親は忙しいのか。
俺がこの家に来た理由、
「水瀬の褒められ慣れてなさすぎる原因調査」は
達成された。
まぁ、緊張しすぎてほとんど忘れていたのだが···。
褒める人が居ないから慣れていない。
単純な事だ。
家庭環境が悪いわけでもなんでもない。
俺は安心すると同時にまた1つ疑問を抱いた。
冨岡義勇
水瀬は、
···水瀬達は、寂しくないのか?
水瀬3人は、揃って口を噤んでしまった。


俺はどうも、思った事をすぐに口に
出してしまう節があるらしい···。
それも余計な事ばかりを···。
冨岡義勇
あ、すまない···。
俺はすぐに謝った。
だがやはり3人は黙ったままだ。
沈黙の空気は重い···。
そうしてしばらくの沈黙の後、妹が口を開いた。
智咲
寂しいよ。
でも、お姉ちゃんが居るもん。
だから、別にいいもん。
その言葉は小学1年生には似つかわしくないない
寂しさを湛えていた。
と同時に、混じりっけのない真実でもあった。
その証拠に妹は、智咲は、笑っている。
最初のほうこそ泣きそうな表情かおだったが、
今は満面の笑みだ。
智咲につられた様に弟、優も口を開いた。
僕もお姉ちゃんが居るから
寂しくない。でも、
優はそこで言葉を切って、ニヤリと笑った。
たまには、冨岡さんが来てくれたら、
もっと寂しくないかな。
なかなかに、嬉しい事を言ってくれる。
だが、此奴、本当に小学3年生か?
妙に大人びている。
そういえば、智咲もだ。
もしかしたらこの家、
異常に「普通」のレベルが高いのか?
また1つ原因が見つかった。
そう思いながら、俺は口を開いた。
冨岡義勇
では、また来る。
そう言うと、3人は笑顔になった。
弟妹の発言に困惑気味だった水瀬でさえ、
笑顔になった。
とても嬉しい、癒される、ずっと見ていたい、
この笑顔を守りたい。
俺なんかが家に来ると約束しただけで、
こんな笑顔が見られるなら、何時でも来る。
俺は心の中で固く誓った。
その後、しばらく遊んで
あっという間に時間が経った。
そして帰る時、水瀬が俺に囁いた。
あなた
今日はありがとう、冨岡くん。
とても小さな声だったが、
それだけで俺の心は満たされた。

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