俺が自己嫌悪?自己憐憫?で
打ちひしがれていると、水瀬の弟が唐突に言った。
弟の問いに水瀬が答える。
そうか、水瀬の両親は忙しいのか。
俺がこの家に来た理由、
「水瀬の褒められ慣れてなさすぎる原因調査」は
達成された。
まぁ、緊張しすぎてほとんど忘れていたのだが···。
褒める人が居ないから慣れていない。
単純な事だ。
家庭環境が悪いわけでもなんでもない。
俺は安心すると同時にまた1つ疑問を抱いた。
水瀬3人は、揃って口を噤んでしまった。
俺はどうも、思った事をすぐに口に
出してしまう節があるらしい···。
それも余計な事ばかりを···。
俺はすぐに謝った。
だがやはり3人は黙ったままだ。
沈黙の空気は重い···。
そうしてしばらくの沈黙の後、妹が口を開いた。
その言葉は小学1年生には似つかわしくないない
寂しさを湛えていた。
と同時に、混じりっけのない真実でもあった。
その証拠に妹は、智咲は、笑っている。
最初のほうこそ泣きそうな表情だったが、
今は満面の笑みだ。
智咲につられた様に弟、優も口を開いた。
優はそこで言葉を切って、ニヤリと笑った。
なかなかに、嬉しい事を言ってくれる。
だが、此奴、本当に小学3年生か?
妙に大人びている。
そういえば、智咲もだ。
もしかしたらこの家、
異常に「普通」のレベルが高いのか?
また1つ原因が見つかった。
そう思いながら、俺は口を開いた。
そう言うと、3人は笑顔になった。
弟妹の発言に困惑気味だった水瀬でさえ、
笑顔になった。
とても嬉しい、癒される、ずっと見ていたい、
この笑顔を守りたい。
俺なんかが家に来ると約束しただけで、
こんな笑顔が見られるなら、何時でも来る。
俺は心の中で固く誓った。
その後、しばらく遊んで
あっという間に時間が経った。
そして帰る時、水瀬が俺に囁いた。
とても小さな声だったが、
それだけで俺の心は満たされた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。