水族館の中には、青く透明な世界が広がっていた。
水瀬も俺も、感嘆の声をあげる。
でも、きっと、意味は違う。
水瀬の「綺麗」は、
おそらく水族館の魚たちに対する「綺麗」だろう。
だが、俺の「綺麗」は水瀬を含めて、
いや、むしろ水瀬を主体にしての「綺麗」だ。
それほどまでに、水瀬は綺麗だった。
楽しそうな横顔が、キラキラした瞳が、
紅潮した頬が、綺麗だ。
俺はまた、そう零す。
俺がそう言うと、水瀬の顔は真っ赤に染まる。
どうしてだろう。言葉が、勝手に出てくる。
そんな時、アナウンスが流れる。
イルカショー···。楽しそうだな。
俺が誘うと、水瀬は少し安心したように、笑った。
しかし、まだ動揺は抜けきっていないようだ。
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そのイルカショーは、一言でいえば大迫力だった。
涼し気というには、
少し多すぎる量の水飛沫が観客席を襲う。
水瀬が呆然と呟く。
俺は、ビニールシートで水飛沫を防ぎつつ尋ねる。
水瀬はどこまでも優しいな。
しかし、俺にも男としての意地がある。
俺が言い切ると、水瀬は顔を真っ赤にして言った。
その言葉に、俺は周囲を見回す。
すると、あちこちにニヤニヤとした顔があった。
俺たちは揃って赤面した。
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楽しい1日は、あっという間に過ぎていった。
水族館の外は日が傾き、
オレンジ色の世界となっていた。
帰り道、水瀬がそう零した。
そういえば、
いつの間にか普通に話せるようになったな。
目標達成だ。
それを嬉しく思いつつ、俺は答える。
そして、ポケットの中を探る。
目的の物を見つけた俺は、水瀬にそっと手渡す。
その小箱に水瀬は驚く。
そう言って水瀬は小箱を開ける。
その中には、イルカのペンダントがあった。
水瀬に似合うだろうと思い、買った物だ。
喜ぶ水瀬に、俺のペンダントも見せる。
要するに、次のデートの誘いだ。
···説明しているうちに、
なんだか恥ずかしくなってきた。
水瀬が顔を紅くする。
夕日の中でも、それが霞むことはなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。