…あれは、反則だ。
あの時、聞かれていたことと、なぜ名前を知っているのかを不思議に思う。
たぶんだが逢沢先輩が呼んだ時にまだいたのか。
それでも、推しに名前を呼ばれるというこれ以上にないご褒美を不意打ちでもらう。
うれしくないことがなかった。
……明日、死ぬんか...
少しの間思考が止まる。
それでも休憩時間の終わりが迫ってきていることを思い出し、あわてて席に戻った。
仕事が終わり、今日はどこにも寄らずに会社を出る。
「は」といっても、いつも寄ってはいないが。
昨日見かけた、気になった店を訪れる。
会社からそこまで遠くはないが近くもない。
だれかと鉢合わせることもないだろう。
少し気が抜ける。
案内された席に座り、メニューを開いた。
ピンポーン
注文をしメニューを片付ける。
カバンからスマホを取り出し、料理が来るまでSNSを眺めた。
そんなに友達が多いわけもなく、通知はゼロ件。
くるとしても公式から。そんな私に一件の通知。
見ると、昨日飲み会で交換した坂本だった。
なにかしらのお誘いだろうか。
淡々としたメール。そしてしれっとサシ飲みすることに。
展開がはやいなーと思いながら、来たメニューに目をやる。
来たハイボールを一気にのどに流し込む。
声にならない感嘆の声。のどが程よく厚くなっていくのがわかる。
一人飲みも悪くないなと思った。
最初に来たハイボールを半分くらい飲んだ頃に坂本がやってくる。
気のゆるみすぎか、少し頭がふわふわする。
治さねばな。
あれから一時間くらいか、言われた通りほどほどに飲んでいる。
だが愚痴や話は止まらない。
なにかぐるぐると回っていた黒いものが引いていったような気がした。
今までは無駄なことを考えていたのだろうか。
それでも不思議とみじめに感じることはなかった。
それまでの考えも、教えてくれた考えも、どちらも正しいかどうか判断が出来なくて。
私は坂本に感謝した。
彼が笑うと少し、空気が晴れたような気がした。
また、しょうもないことで笑いあう。
もう一時間が、あっという間に過ぎていった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。