第30話

孤独な戦士
288
2024/04/14 08:29
暇72side
いつも見ている背中

若葉色の着物を着て剣を振る姿は舞っているみたいだ

誰よりも優しくて

誰よりも強い人

誰もが頼りにし、憧れる人。

そんなすちの努力には誰も気づかない

生まれ持った才能がある。

そう思われているすち。

窓から見えるすちの苦しそうな顔も、

一生懸命汗を流しながら剣を振っている姿も、

誰も知らない。見ていない。

あいつ自身を誰も見ていない。

少し前、先輩のような人がすちに話しかけていた

気になったから、隠れて話を聞いていると酷く腹が立ってきた

その人はすちに

『お前って不器用だよな』

と言った

悪意のあるその言い方、

うるせぇよ。

騙すより、騙される側、

裏切るより、裏切られる側、

自分の幸福より、他人の幸福を願う、

そんな綺麗な生き方をしているのにこいつは不器用だと言ったんだ。

何も知らねぇやつがそんなこと言う資格なんてないくせに

すちもそうだ。いつもどんなことを言われても傷ついているくせに笑っている

俺が怒る資格がないから余計に悔しかった

誰のことも傷つけずに生きることなんて出来るわけないから

いい人になろうとして笑わなくていいのに

自分を殺してまで笑わなくていいのに
もう誰も傷つかない世界になればいいのにな

誰よりも優しいすちが笑顔でいられる世界になればいいのに

誰よりも泣き虫なお前がもう泣かなくていい世界になればいいのに

誰よりも守りたいすちの心が壊されることのない世界にしたい

綺麗事だけど本気で願ってるからさ

大好きなあの人の背中を追いかけて外に出る
すち
暇ちゃん?どうしたの?
暇72
あのさ、俺たちは人間なんだから、心無いことを言われて傷つくことも、悲しい時に涙が出るのもどうしたって分かり合えない人がいるのも、おかしい事じゃねぇんだからさ、大丈夫だ
すち
…暇ちゃんはよく気付くなぁ
やっと俺の前で泣いてくれた

いっつも隠しやがって…

でもそんな優しいお前が明日も笑えますように。

そんな優しい世界でありますように。

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