丈一郎たちが出かけてから、しばらくは穏やかな時間が流れていた。
リビングにはおもちゃが散らばり、駿佑と謙杜が床に座って車のおもちゃを走らせている。その横で、恭平は流星を見守りながら、絵本を読んでいた。
流星は二人の動きを目で追いながら、ぽかんとした顔をしている。
けれど、ふと何かに気づいたように、きょろきょろと辺りを見回した。
その声に、恭平が顔を上げる。
流星は一瞬きょとんとしたあと、立ち上がろうとしてよろける。
恭平がすぐに支えるが、流星は不安そうに部屋を見渡し、また声を出した。
恭平は流星の前に新しいおもちゃを差し出す。
駿佑も謙杜も、慌てて別のおもちゃを持ってくる。
けれど、流星はそれを見ようともせず、唇をきゅっと結んだまま、じっと玄関の方向を見つめていた。
声が震え始め、次の瞬間。
大きな泣き声が、部屋いっぱいに広がった。
抱き上げて背中をさすっても、泣き止まない。
駿佑と謙杜も戸惑ったように立ち尽くす。
その泣き声の中で、流星は必死に何かを伝えようとする。
拙い言葉。
それでも、はっきりと意味が伝わる一言だった。
小さな声で、必死に絞り出すように言ったその言葉に、三人は息を呑んだ。
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、こくんと小さく頷く。
その姿に、驚きと嬉しさが一気に込み上げた。
そう言って、駿佑はそっと流星を抱き上げた。
小さな背中を優しく叩きながら、ゆっくり揺らす。
すると、不思議なほどすぐに、流星の泣き声が弱まっていった。
しゃくりあげながらも、駿佑の服をぎゅっと掴み、顔を埋める。
駿佑は少し照れたように笑いながら、流星の背中を撫で続ける。
流星は完全に安心したようで、そのまま離れようとしなかった。
小さく呟いてから、ぎゅっとしがみつく。
それ以来、流星は駿佑から離れず、べったりと甘え続けていた。
一方、その頃。
外出先では、大吾が何度も兄のスマホを覗き込み、落ち着かない様子で歩いていた。
心配そうな顔のまま俯く大吾を見て、丈一郎と和也は顔を見合わせ、くすっと笑った。
そう言いながらも、またため息をつく。
その様子があまりに微笑ましくて、二人は何も言わず、そっと見守っていた。
そして、夕方。
家に帰ると、リビングでは駿佑が流星を抱っこしたまま、ソファに座っていた。
流星はすっかり安心しきった顔で、駿佑の胸に顔を埋めている。
その光景を見た瞬間、大吾の足が止まった。
大吾はじっと二人を見つめ、じわじわと頬を膨らませる。
そう言って、そろそろと近づき、駿佑の腕の中の流星を見下ろす。
すると、眠っていたはずの流星が、薄く目を開けた。
その一言に、大吾の表情が一気に緩む。
けれど、すぐに駿佑にぴとっと顔をくっつけるのを見て、再びむっとした。
そんな大吾の様子に、兄たちは思わず笑ってしまうのだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。