第107話

100話
1,110
2025/12/26 12:00 更新
部屋をぐるりと見回して、忘れ物がないか最終確認する。

昨日の夜はどうなるかと思ったけど、
彼と過ごした時間は、静かで、楽しくて、
時々緊張もしたけど、悪い時間じゃなかった。

むしろ。


(……すごく、幸せだった気がする)


2人きりの空間は、今となっては、名残惜いほどだった。
そんなことを考えていたら、ドアを出た彼から声がかかった。


「集合ロビーやんな」


振り返ると、彼が少し首を傾けて立っていた。


『うん!』


2人でエレベーターへ向かい、並んで乗り込む。
ロビーに到着すると、すぐに声が飛んできた。


「お、カイリュウとあなたさん!おはよー!」

『おはよう〜!』

「ん、おはよう〜まだバス来てないよ」


タクトさんがスマホを見ながら私たちに伝える。


「おん、わかった」

「あとセイトとリュウキか」


ランくんがフロントの方をちらっと見ると、
その言葉通り、2人が遠くから歩いてくる。


「おはようございまーす……あれ、遅刻やないよな?」

「うん、まだ大丈夫やよ」

「おはよー。あなたさん、カイリュウに変なことされませんでした?」


セイトくんの冗談に、思わず声が漏れそうになる。


「あほか!してへんわ」

「いや、リュウキがワクワクして夜うるさくて大変やったんよ」

「うわ、言うなや!」

「だれも心配してないやろ笑」


ランくんがぼそっと刺す。
にぎやかで、いつも通りのやり取り。

(……良かった。変な空気にならなくて)

少し肩の力が抜けた。



バスが到着し、順番に乗り込んでいく。
車内は柔らかい朝の空気で、スタッフさんたちもちらほら座っていた。

私を見つけたスタッフさんがすぐに駆け寄ってくる。


「あなたちゃん!昨日ほんとにごめんね、部屋間違えちゃって……!」

『あ、全然大丈夫ですよ!』


あわてて両手を振ると、スタッフさんが胸に手を当ててほっと息をついて小声で言う。


「気まずかったでしょ?大丈夫だった?」

『全然!むしろ、海龍との仕事もあったので助かりました』


本当は社長の勘違いだったけど…
心配そうな顔を見ると、そのまま言えなかった。


「そう…? ほんとにごめんね〜」

『ほんとに大丈夫です!気にしないでください』


笑顔で返すと、スタッフさんも少し笑ってくれた。

バスがゆっくりと動き出す。

窓の外の景色が流れ始めても、
胸の中には彼との2人きりの空気がまだ残っていた。

プリ小説オーディオドラマ