部屋をぐるりと見回して、忘れ物がないか最終確認する。
昨日の夜はどうなるかと思ったけど、
彼と過ごした時間は、静かで、楽しくて、
時々緊張もしたけど、悪い時間じゃなかった。
むしろ。
(……すごく、幸せだった気がする)
2人きりの空間は、今となっては、名残惜いほどだった。
そんなことを考えていたら、ドアを出た彼から声がかかった。
「集合ロビーやんな」
振り返ると、彼が少し首を傾けて立っていた。
『うん!』
2人でエレベーターへ向かい、並んで乗り込む。
ロビーに到着すると、すぐに声が飛んできた。
「お、カイリュウとあなたさん!おはよー!」
『おはよう〜!』
「ん、おはよう〜まだバス来てないよ」
タクトさんがスマホを見ながら私たちに伝える。
「おん、わかった」
「あとセイトとリュウキか」
ランくんがフロントの方をちらっと見ると、
その言葉通り、2人が遠くから歩いてくる。
「おはようございまーす……あれ、遅刻やないよな?」
「うん、まだ大丈夫やよ」
「おはよー。あなたさん、カイリュウに変なことされませんでした?」
セイトくんの冗談に、思わず声が漏れそうになる。
「あほか!してへんわ」
「いや、リュウキがワクワクして夜うるさくて大変やったんよ」
「うわ、言うなや!」
「だれも心配してないやろ笑」
ランくんがぼそっと刺す。
にぎやかで、いつも通りのやり取り。
(……良かった。変な空気にならなくて)
少し肩の力が抜けた。
バスが到着し、順番に乗り込んでいく。
車内は柔らかい朝の空気で、スタッフさんたちもちらほら座っていた。
私を見つけたスタッフさんがすぐに駆け寄ってくる。
「あなたちゃん!昨日ほんとにごめんね、部屋間違えちゃって……!」
『あ、全然大丈夫ですよ!』
あわてて両手を振ると、スタッフさんが胸に手を当ててほっと息をついて小声で言う。
「気まずかったでしょ?大丈夫だった?」
『全然!むしろ、海龍との仕事もあったので助かりました』
本当は社長の勘違いだったけど…
心配そうな顔を見ると、そのまま言えなかった。
「そう…? ほんとにごめんね〜」
『ほんとに大丈夫です!気にしないでください』
笑顔で返すと、スタッフさんも少し笑ってくれた。
バスがゆっくりと動き出す。
窓の外の景色が流れ始めても、
胸の中には彼との2人きりの空気がまだ残っていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。