あの「共鳴」の日以来、シオンとカレンの身体には奇妙な変化が起きていた。
シオンの白い指先には時折、カレンの熱が移ったかのような赤い斑点が浮かび、カレンの奔放な花力の中には、シオンの氷のような静謐さが芯となって通るようになった。
互いの「花力」を混ぜ合わせる。それは、魂の一部を削り、相手に埋め込むことと同義だった。
「……ねえ、シオン。最近、夢を見るんだ」
学園の地下、廃棄された温室。カレンはシオンの膝に頭を預け、天井の割れたガラスから見える月を見上げていた。
「真っ白な丘に、私たちの花が咲いている夢。戦うための棘も、命を吸う毒もない。ただ、風に揺れているだけの……」
シオンは無言で、カレンの赤い髪を指で梳いた。シオンの手のひらからは、カレンの異常な体温を鎮めるように、淡い白百合の香りが漂っている。
「そんな場所、どこにもないわ。私たちは、この庭(がくえん)で枯れるために生まれたのよ」
「……冷たいなあ。でも、その冷たさが好きだよ」
カレンがシオンの手を掴み、自分の頬に寄せたその時。
温室の入り口に、冷酷な影が差した。
「麗しい光景ですこと。ですが、庭師(わたし)の許可なく交配を始めるのは、感心しませんわね」
現れたのは、学園の最高権力者、理事長・黒百合のローゼだった。
彼女が杖をひと突きすると、地面から黒い霧のような花力が溢れ出し、温室の枯れ木を一瞬で真っ黒な**黒百合(ブラックリリー)**へと変貌させた。
「理事長……!」
シオンが即座に立ち上がり、カレンを背後に隠す。だが、ローゼの眼光は鋭く二人を射抜いた。
「シオン。あなたは『母樹(マザー・フラワー)』の核となるべき、最高傑作の白。そしてカレン、あなたは……その白を汚す不純物ですわ」
ローゼの言葉と共に、黒い蔦が蛇のように地を這い、二人の足を絡めとった。
「母樹」。それは学園の地下深くで、全生徒の花力を吸い上げ、永遠の命を咲かせると言われる伝説の怪物。学園は、少女たちを育てる場所ではなく、母樹への「肥料」を精製するための苗床に過ぎなかったのだ。
「カレンを不純物なんて呼ばせない……!」
シオンの背後から、かつてない規模の白百合が展開される。だが、その花弁には赤い筋が混じっていた。カレンから受け取った「熱」が、シオンの計算された氷の回路を狂わせていく。
「あら、もうこんなに混ざり合って。……ならば、摘み取るしかありませんわね」
ローゼが指を鳴らす。
背後の闇から、学園の処刑部隊「葬儀師(グラップラー)」たちが姿を現した。彼女たちの武装は、個人の意志を奪われた、無機質な「造花」の剣。
「シオン、下がって!」
カレンが前に飛び出した。彼女の背から噴き出した彼岸花は、もはや花というよりは、血を滴らせる紅蓮の翼のようだった。
「私の命をいくら吸ってもいい! でも、シオンにだけは、指一本触れさせない!」
カレンの花力が爆発する。
温室のガラスが内側から吹き飛び、夜の闇に赤い火花と白い氷片が舞い散った。
「行こう、シオン! こんな偽物の庭、私たちが焼き払ってあげる!」
カレンは、凍りついたシオンの手を強く握りしめた。
それは、学園という秩序への反逆であり、二人だけの地獄への逃避行の始まりだった。
逃げる二人の背後で、ローゼの冷笑が響く。
「逃げなさい。どこまでも。……あなたたちが愛し合えば合うほど、その花力は純化され、母樹にとって最高の『蜜』になるのですから」
夜の学園を、赤と白の光が駆け抜けていく。
向かう先は、誰も知らない「約束の丘」。
だが、二人の足元からは、黒い影がどこまでも、どこまでも伸びていた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。