第2話

狂い咲く叛逆ー理事長の庭園ー
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2026/04/27 12:00 更新
あの「共鳴」の日以来、シオンとカレンの身体には奇妙な変化が起きていた。
シオンの白い指先には時折、カレンの熱が移ったかのような赤い斑点が浮かび、カレンの奔放な花力の中には、シオンの氷のような静謐さが芯となって通るようになった。

互いの「花力」を混ぜ合わせる。それは、魂の一部を削り、相手に埋め込むことと同義だった。

「……ねえ、シオン。最近、夢を見るんだ」

学園の地下、廃棄された温室。カレンはシオンの膝に頭を預け、天井の割れたガラスから見える月を見上げていた。

「真っ白な丘に、私たちの花が咲いている夢。戦うための棘も、命を吸う毒もない。ただ、風に揺れているだけの……」

シオンは無言で、カレンの赤い髪を指で梳いた。シオンの手のひらからは、カレンの異常な体温を鎮めるように、淡い白百合の香りが漂っている。

「そんな場所、どこにもないわ。私たちは、この庭(がくえん)で枯れるために生まれたのよ」

「……冷たいなあ。でも、その冷たさが好きだよ」

カレンがシオンの手を掴み、自分の頬に寄せたその時。
温室の入り口に、冷酷な影が差した。

「麗しい光景ですこと。ですが、庭師(わたし)の許可なく交配を始めるのは、感心しませんわね」

現れたのは、学園の最高権力者、理事長・黒百合のローゼだった。
彼女が杖をひと突きすると、地面から黒い霧のような花力が溢れ出し、温室の枯れ木を一瞬で真っ黒な**黒百合(ブラックリリー)**へと変貌させた。

「理事長……!」

シオンが即座に立ち上がり、カレンを背後に隠す。だが、ローゼの眼光は鋭く二人を射抜いた。

「シオン。あなたは『母樹(マザー・フラワー)』の核となるべき、最高傑作の白。そしてカレン、あなたは……その白を汚す不純物ですわ」

ローゼの言葉と共に、黒い蔦が蛇のように地を這い、二人の足を絡めとった。
「母樹」。それは学園の地下深くで、全生徒の花力を吸い上げ、永遠の命を咲かせると言われる伝説の怪物。学園は、少女たちを育てる場所ではなく、母樹への「肥料」を精製するための苗床に過ぎなかったのだ。

「カレンを不純物なんて呼ばせない……!」

シオンの背後から、かつてない規模の白百合が展開される。だが、その花弁には赤い筋が混じっていた。カレンから受け取った「熱」が、シオンの計算された氷の回路を狂わせていく。

「あら、もうこんなに混ざり合って。……ならば、摘み取るしかありませんわね」

ローゼが指を鳴らす。
背後の闇から、学園の処刑部隊「葬儀師(グラップラー)」たちが姿を現した。彼女たちの武装は、個人の意志を奪われた、無機質な「造花」の剣。

「シオン、下がって!」

カレンが前に飛び出した。彼女の背から噴き出した彼岸花は、もはや花というよりは、血を滴らせる紅蓮の翼のようだった。

「私の命をいくら吸ってもいい! でも、シオンにだけは、指一本触れさせない!」

カレンの花力が爆発する。
温室のガラスが内側から吹き飛び、夜の闇に赤い火花と白い氷片が舞い散った。

「行こう、シオン! こんな偽物の庭、私たちが焼き払ってあげる!」

カレンは、凍りついたシオンの手を強く握りしめた。
それは、学園という秩序への反逆であり、二人だけの地獄への逃避行の始まりだった。

逃げる二人の背後で、ローゼの冷笑が響く。

「逃げなさい。どこまでも。……あなたたちが愛し合えば合うほど、その花力は純化され、母樹にとって最高の『蜜』になるのですから」

夜の学園を、赤と白の光が駆け抜けていく。
向かう先は、誰も知らない「約束の丘」。
だが、二人の足元からは、黒い影がどこまでも、どこまでも伸びていた

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