スマホで廊下を照らすトウカを先頭に、リカ、柳薇と続く。
そんな調子の掛け合いを横目で見ながら聞いていた柳薇がトウカの隣まで来て口を開く。
指を刺しながら尋ねてくる柳薇と半笑いのリカを交互に見て、トウカはスマートフォンについて説明をした。語り合えると柳薇は、
と、スマホをまじまじと見つめながら呟いた。
私たちが行っても襲われないかな、と言おうとすると、リカが声を発した。
短くそう言って、廊下の先を指差す。
目を凝らすと、等身の低い長髪の頭が見えた。しかし、頬が異常なまでに痩せこけており、空洞のように黒く、大きな目がこちらを捉えている。
てるてる坊主のような布を纏っているが、生えているのは、足ではなく大量の腕であった。
ふと、違和感を覚えた。
顔はまっすぐこちらを向いており布からから生えている複数の手は、心なしか素早く動いている気がする。
言いかけて、柳薇は一度、何かを思い出すようなそぶりをした。
隣から短い悲鳴が聞こえてきて、柳薇は意識をこちらに戻した。
振り返れば、無数の怪異の腕がトウカにつかみかかっていた。
カツーンと、スマホが床に落ちる音がすると同時に、柳薇が刀を抜く。
目の前を通り過ぎた刃に、トウカは再び悲鳴を上げる。
怪異の腕を、柳薇が刀で一刀両断したのだ。
だから浮遊怪異さんには気をつけろ、と柳薇が叫ぶと同時に、廊下の向こう側から、死にかけの昆虫の声のような音が聞こえてきた。思わず顔を向ける。
廊下の向こう側には、大量の怪異の群れが集まってきていた。
しょうがない、と言って柳薇は再び刀を抜く。
早く、と、鞭を打つような叫びと共に二人は廊下を走り出した。
結局、トウカが言いたかった言葉は、最後まで言えなかった。
「うさぎ小屋の番人」は、噂にある通り、自分たちを襲うのではないか、と。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。