第9話

8[浮遊怪異注意報]
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2024/02/19 13:25
スマホで廊下を照らすトウカを先頭に、リカ、柳薇と続く。
トウカ
何で私が先頭なの!!
リカ
スマホの充電がありったけあるからだよ
そんな調子の掛け合いを横目で見ながら聞いていた柳薇がトウカの隣まで来て口を開く。
柳薇ゆら
それ、何?スマホとか言うやつ。前こっちに来た人間もそれ持ってた
指を刺しながら尋ねてくる柳薇と半笑いのリカを交互に見て、トウカはスマートフォンについて説明をした。語り合えると柳薇は、
柳薇ゆら
文明ってやつ?
と、スマホをまじまじと見つめながら呟いた。
トウカ
そういえばさ、うさぎ小屋の番人は通りかかった人を襲うって噂だったけど、
私たちが行っても襲われないかな、と言おうとすると、リカが声を発した。
リカ
あそこ、何かいる
短くそう言って、廊下の先を指差す。
目を凝らすと、等身の低い長髪の頭が見えた。しかし、頬が異常なまでに痩せこけており、空洞のように黒く、大きな目がこちらを捉えている。
てるてる坊主のような布を纏っているが、生えているのは、足ではなく大量の腕であった。
柳薇ゆら
…あれは、浮遊怪異さん?めずらしいね、こんなところにいるなんて
リカ
なんてビジュしてるんだ…気持ち悪い
トウカ
い、言ってやるなって!
ふと、違和感を覚えた。
トウカ
…ねえ、浮遊怪異さん?が、こっちに近づいてきてる気がするんだけど…
顔はまっすぐこちらを向いており布からから生えている複数の手は、心なしか素早く動いている気がする。
柳薇ゆら
本当だ…近づいてきてる…
めずらしいね
リカ
さっきからめずらしいって、何回も言うけど、そんなに珍しいものなの?
柳薇ゆら
うん。浮遊怪異さんはこの学校にはあまりいないし、あちらから近づいてくる場合なんて、興味があるか、
柳薇ゆら
死罪人クラスの怪異の気配に感化された時くらいしか…
言いかけて、柳薇は一度、何かを思い出すようなそぶりをした。
柳薇ゆら
死罪人…
隣から短い悲鳴が聞こえてきて、柳薇は意識をこちらに戻した。
振り返れば、無数の怪異の腕がトウカにつかみかかっていた。
カツーンと、スマホが床に落ちる音がすると同時に、柳薇が刀を抜く。
トウカ
うわっ!
目の前を通り過ぎた刃に、トウカは再び悲鳴を上げる。
リカ
すっご…さすが軍人じゃん…
怪異の腕を、柳薇が刀で一刀両断したのだ。
柳薇ゆら
思い出した!今、お前らの先生が死罪人としてこちらにいるから、浮遊怪異さんたちが荒れてるんだ!!
だから浮遊怪異さんには気をつけろ、と柳薇が叫ぶと同時に、廊下の向こう側から、死にかけの昆虫の声のような音が聞こえてきた。思わず顔を向ける。
トウカ
ちょ、ちょっと!なんかいっぱいいるんだけど!?
柳薇ゆら
見たことない数だ…
リカ
気持ち悪っ!
廊下の向こう側には、大量の怪異の群れが集まってきていた。
しょうがない、と言って柳薇は再び刀を抜く。
柳薇ゆら
俺はこいつら全員引きつけて、殺してから行く。お前らは先に家畜くんのところに行け!
早く、と、鞭を打つような叫びと共に二人は廊下を走り出した。
結局、トウカが言いたかった言葉は、最後まで言えなかった。
「うさぎ小屋の番人」は、噂にある通り、自分たちを襲うのではないか、と。

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