
こっちよ!と、メアリーが階段を駆け上がる。
「駆け上がる」と言っても、
1段上がるのにホームズの2歩分をかけるので、
実質昇る速さは変わらない。
ひょこり、またひょこりと。
ホームズはまるで珍しい生き物を見るような目で、
彼女を見ていた。
その視線に気づいたのか。
メアリーがホームズに尋ねる。
いやしかし、とホームズは歩みを止める。
メアリーはと言うと、
ホームズに構わずいそいそと階段を登っていく。
ホームズはがくりと階段を踏み外した。
自分より一回りも幼い女性に、
「ホームズさま」と呼ばれることが、なんとなく・・・倫理的に・・・誤解されるのでは・・・と僅かに思いながらも、直る見込みがないと3秒で悟り、ホームズは受け入れることにした。
そして階段を登り切ったところで、
メアリーが足を止める。
そう言ってメアリーが手前の部屋の扉を開けようとしたその時・・・。

手をかけた扉が勝手に開き、
驚きと反動で後ろに倒れそうになったメアリーをとっさにホームズが支える。
暗緑色の絨毯が広がる20畳ほどの応接間には
レストレードと、屋敷の使用人が勢揃いしていた。
レストレードはホームズの顔を見て、
はぁ、と溜め息をつく。

使用人のひとりが、レストレードの声を遮るほど大きな声を上げ、メアリーに駆け寄る。
メアリーは1人になりたかったのではないだろうか。
少女の返事を聞いて、ホームズはそう思った。
つづく



















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!