その日の夜───
新鮮な空気を吸いに外に出たユーエン。
空を見上げれば、燦然と輝く星が見える。
これから戦争が起こるような雰囲気は、とても感じられない。
満月の光は明るく街中を照らしている。
ウルシュカも星を見てるかな…と彼の顔を思い出していると、ユーエンの背後に影が。
ユーエンはいきなり声をかけられたことに、その人物はユーエンの声に驚いて、二人は同じように目を丸くしていた。
そこで二人の間に流れる沈黙。
先に口を開いたのはユーエンだった。
予想外の答えにユーエンはうろたえたが、ふとその意味が理解出来た。
ようは、聞きたいことになんでも答える、そう言いたいのだろう。
なんでもないようにイムは告げる。
何も感じないのかな、と不思議に思ったユーエンは尋ねることにした。
相変わらずフードで見えないが、雰囲気はひしひしと伝わってくる。
ぽむ、と手を叩いて、イムは理由を話し始めた。
置いていかれる側の孤独は、ユーエンも知っているつもりだ。
ユーエンは黙って話を聞いていた。
永遠を生きるイムにとって、それは今までの全てを覆すような出来事だったに違いない。
恋ではないが、イムは純粋にその生き様に魅入られたのだろう。
今でもその時の衝撃は忘れられない。
鮮明に思い出すことが出来る。
ユーエンはその答えにクスクスと笑った。
イムも、フードの下から笑みを覗かせている。
だがユーエン、あまり深く考えないことにした。
想像してちょっとほっこりした。
案外ユニークな人なのかも、とユーエンは人物像を思い浮かべる。
未だに一度も姿を見たことがないが、少なくとも嫌われているわけではないようでユーエンは安心した。
イムはまだ、その感情を上手く言い表せるほど正しく認識出来てはいないのだろう。
だが、何となく言いたいことは分かった。
イムはそう言ってフードを脱いだ。
少女と言われた方が違和感のない顔。
元々は両目とも赤色だったのだろうか、片方は禍々しい蒼色だ。
ユーエンの難しい気配に気付いたイムは、大丈夫だと告げた。
それくらいの元気があるのなら大丈夫だろう。
口説く相手はイルハーツ王だろうな…とユーエンは容易に想像出来た。
ふと、イムがそんなことを聞いてきた。
その問いにユーエンは目を丸くして、笑って頷いた。
そりゃあ眠れないな、とユーエンは納得してしまった。
思考が徐々に寄ってきたのは気のせいだろうか。
イムはそう言って笑った。
その言葉にユーエンは笑顔で頷く。
仲間───その言葉だけで胸が温かくなる。
昔の自分なら不信感を募らせて叫んでいたかもしれない。
聞く度に耳を塞ぎたくなった言葉が、今は不思議と勇気を与えてくれたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!