第17話

下克上
8
2025/05/05 10:51 更新
一青零兎
一青零兎
よし、行こうか。
そう言うと一番奥の部屋まで歩き、ドアをノックした。
一青零兎
一青零兎
東先輩。二十三期生の挨拶に来ました。
先生がそう言い終わるとガチャ、という音と共に扉があいた。
先輩
先輩
……ふぅん。今回はこんな感じなんだ。……この子は?
……多分、私の記憶のことだろう。もしかしたら、残っているのが嫌なのかもしれないな。いや、まあそうだよな。面倒事を起こされたくないだろうし。
一青零兎
一青零兎
……分かりません。多分消えてます。
そう言うと先生はこっちに目配せをした。先生がどう返答するのかドキドキしていたが、まさか嘘をつくとは……
花咲柚月
花咲柚月
……こんにちは。二十三期生の花咲です。
これくらいで、いいだろうか……?
四季蒼流
四季蒼流
こんにちは東先輩。二十三期生の四季です。よろしくお願いします。
蒼流らしく、きっちりやっているな……私もそれくらい言った方が良かったか…?
一青零兎
一青零兎
先輩、よろしくお願いしますね。
先生が最後にしめくくる。先生は締めくくった後に蒼流を部屋にもどし、私と先生は元の部屋に帰った。
一青零兎
一青零兎
……柚月ちゃん。俺、話さないといけないことがあるんだよね。
急に先生がゆっくりと話し始めた。
一青零兎
一青零兎
……俺、記憶ないかもしれないんだよね。
花咲柚月
花咲柚月
……え?
今まで記憶があるといい続けてきた先生が急にこんなことを言い始めた。だからといって責める気にもなれない。……先生がすごく、悲しそうな顔をしていたから。
一青零兎
一青零兎
……違和感が3つくらいあるんだ。記憶に。俺の名前の違和感、先生の違和感、そしてなんとなく、そうなんとなくの違和感があるんだよね。
花咲柚月
花咲柚月
……?
先生にしてはちょっといつもより大人びててゆっくりしたテンポで話している。まぁ、最近はいつもこんな感じか……
一青零兎
一青零兎
まず俺の名前。俺の名前ってさ。零度の零に兎って書くんだけど、斗でも良かったはずなんだよ。そして第一、親は兎嫌いだったし。わざわざなんで兎っていう感じ使ったのかなぁって。まぁ、これくらいは別に親の気まぐれとかもあるかもだけど、けどね、次に先生の違和感があるんだ。東先生が一応俺の先生なんだけど……東先生ってこの校舎の一番のベテランなんだよ。まぁ、俺が柚月ちゃんを見ている感じに、たいてい新人が子供達の先生をやるんだよね。俺の先輩も普通にいるし……最後に。俺、記憶がある……?!ってなってからさ。最初の一年くらいだけど[零兎]って呼ばれてもすぐ反応出来なかったんだ。うん。誰か呼ばれてるなあくらいにしか思えなくってさ。だから、それなら……俺の記憶って捏造されてるのかなぁって……あ、ごめんね。俺ばっか喋って。
花咲柚月
花咲柚月
……
思ったより重い話だった。記憶の捏造…?というか最近まで記憶を消すとかそういうことが当たり前だと思っていたが、実際どうやるんだろうか?そんなことできるのだろうか…?まぁできるからこうなっているんだよな……
一青零兎
一青零兎
要するにさ。
先生がまた話し始める。今度は何を話し出すのかと少し身構える。
一青零兎
一青零兎
多分、記憶なんて最初から残しておく気なんて先輩達はないってこと。
先生がこんなにも悲しい顔をしているのを初めて見た。今まで悲しい顔をしている時を何回か見ているが、こんなにも悲しそうなのははじててだ。きっと、今まで色々な人達が笑顔でここ流星塾にかよってるのとかを見て辛かったんだろうなぁ。ふと、そう思った。
花咲柚月
花咲柚月
じゃ、じゃあ私はっ!
一青零兎
一青零兎
……うん。
先生のその返事は適当なうんではなくてすごく重くて、すごく切ない返事だった。東先輩に私の記憶がないと偽ったのもきっとこのためだろう。あるって答えた時点で私の記憶が無くなると、消されると考えたんだろう。
花咲柚月
花咲柚月
……っ。……先生、ごめんなさい。
バチッ
一青零兎
一青零兎
っ。
…悪いとは思っている。思っているのだけれど、これは先生のためでもあるんだ。東先輩からの置き手紙とともに私のポッケに入っていたこのスイッチ…先生がなにかした時に使うスイッチ……。こんなことに使ってはいけないとわかっている。が、私は東先輩と話がしたかった。そして今くらいしかチャンスはない。私の記憶がなくなっては意味が無い。そして、先生の真実を、どうしても確認したい。とりあえず部屋に向かおう。
花咲柚月
花咲柚月
失礼、します。
そう言うと、先輩は扉を開けてくれ、中に入れてくれた。
先輩
先輩
どうぞ。入って。
ゆったりとしたその口調と、少し圧迫感のあるその声は少し私の不安を煽った。
先輩
先輩
で、なにかな。
私が椅子に座るのを見計らい、私に声をかける。先輩も多分分かっているんだろう。私が、なぜここに来たのか…
花咲柚月
花咲柚月
少し、お話がしたくて。
できるだけ冷静に装う。が、内心すごく焦っている。私の記憶の事がバレなければいいが。
先輩
先輩
これ、クッキーとお水。どうぞ。
こういうのは食べない方がいい。前、零兎先生が「もしなにか食べ物とかを俺以外に貰ったら、睡眠薬が混入している可能性があるから気をつけて。」と言っていた。その時はなぜそんなことを急に…とは思ったが、たぶん。面倒事を避けるためだろう。
先輩
先輩
ふぅん。で?一青くんは?
花咲柚月
花咲柚月
……
こんなにも早く気づかれたか。予想だと話が終わったくらいだと思っていたが……
先輩
先輩
いいよぉ。答えなくても。
東先輩はニコッと微笑む。が、目の奥が笑っていない感じがしてどうも笑えなかった。

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