そう言うと一番奥の部屋まで歩き、ドアをノックした。
先生がそう言い終わるとガチャ、という音と共に扉があいた。
……多分、私の記憶のことだろう。もしかしたら、残っているのが嫌なのかもしれないな。いや、まあそうだよな。面倒事を起こされたくないだろうし。
そう言うと先生はこっちに目配せをした。先生がどう返答するのかドキドキしていたが、まさか嘘をつくとは……
これくらいで、いいだろうか……?
蒼流らしく、きっちりやっているな……私もそれくらい言った方が良かったか…?
先生が最後にしめくくる。先生は締めくくった後に蒼流を部屋にもどし、私と先生は元の部屋に帰った。
急に先生がゆっくりと話し始めた。
今まで記憶があるといい続けてきた先生が急にこんなことを言い始めた。だからといって責める気にもなれない。……先生がすごく、悲しそうな顔をしていたから。
先生にしてはちょっといつもより大人びててゆっくりしたテンポで話している。まぁ、最近はいつもこんな感じか……
思ったより重い話だった。記憶の捏造…?というか最近まで記憶を消すとかそういうことが当たり前だと思っていたが、実際どうやるんだろうか?そんなことできるのだろうか…?まぁできるからこうなっているんだよな……
先生がまた話し始める。今度は何を話し出すのかと少し身構える。
先生がこんなにも悲しい顔をしているのを初めて見た。今まで悲しい顔をしている時を何回か見ているが、こんなにも悲しそうなのははじててだ。きっと、今まで色々な人達が笑顔でここにかよってるのとかを見て辛かったんだろうなぁ。ふと、そう思った。
先生のその返事は適当なうんではなくてすごく重くて、すごく切ない返事だった。東先輩に私の記憶がないと偽ったのもきっとこのためだろう。あるって答えた時点で私の記憶が無くなると、消されると考えたんだろう。
バチッ
…悪いとは思っている。思っているのだけれど、これは先生のためでもあるんだ。東先輩からの置き手紙とともに私のポッケに入っていたこのスイッチ…先生がなにかした時に使うスイッチ……。こんなことに使ってはいけないとわかっている。が、私は東先輩と話がしたかった。そして今くらいしかチャンスはない。私の記憶がなくなっては意味が無い。そして、先生の真実を、どうしても確認したい。とりあえず部屋に向かおう。
そう言うと、先輩は扉を開けてくれ、中に入れてくれた。
ゆったりとしたその口調と、少し圧迫感のあるその声は少し私の不安を煽った。
私が椅子に座るのを見計らい、私に声をかける。先輩も多分分かっているんだろう。私が、なぜここに来たのか…
できるだけ冷静に装う。が、内心すごく焦っている。私の記憶の事がバレなければいいが。
こういうのは食べない方がいい。前、零兎先生が「もしなにか食べ物とかを俺以外に貰ったら、睡眠薬が混入している可能性があるから気をつけて。」と言っていた。その時はなぜそんなことを急に…とは思ったが、たぶん。面倒事を避けるためだろう。
こんなにも早く気づかれたか。予想だと話が終わったくらいだと思っていたが……
東先輩はニコッと微笑む。が、目の奥が笑っていない感じがしてどうも笑えなかった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!