第5話

言い出せない!
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2026/08/28 23:56 更新
「なぁ知ってる?」
日曜の昼、集まった4人はカフェでランチをしていた。
「知らない」
ニヤニヤしながら二口が矢巾に答える。
「まだ何も言ってないだろ!」
「で…何?」
白布がコーヒーをすすりながら訊く。
「某歌番組が来るんだってさ。あの…なんだっけ。市民が出場して歌う番組。」
「ふーん」
いかにも興味なさそうに二口が相槌を打った。なんだよ、と矢巾が拗ねた。
「矢巾が出ればいいのに。矢巾、興味あるから話題持ち出したんじゃないの?」
縁下がパンケーキを切り、外の犬に手を振りながら言う。
「ちげえよ!ていうかお前に対して言ってたんだよ!」
全員ちゃんと聞いてくれないとばかりに矢巾が話す。
「あのなぁー!お前地域の歌唱クラブ入ってただろ!」
「現在進行系。入ってる。」
縁下が矢巾に即レスする。
「……。だから、良いんじゃないかって思っただけ。」
矢巾がココアを混ぜる。冷めてんじゃないか、と二口が言う。
「……知ってたよ」
「え?」
矢巾が目を丸くする。
「俺、でもあんまり人に言い出せないから…。予選で当選するかも分からないし。何の取り柄もないからさ。」
縁下が寂しそうに言った。自分に自信がよほどないんだろう。
「白布みたいに完璧じゃないし、矢巾みたいに熱い奴じゃないし、二口みたいに根はいい奴じゃない。」
縁下はそう言うと、パンケーキを口に運んだ。パンケーキを飲み込むと縁下は続けた。
「地域の歌唱クラブで『中学生以上は』って言われてたけど…まぁ今回は…」
「いやいや、何でだよ」
白布がしらすトーストを食べながら言う。
「お前こそ完璧超人だろ。運動できるし勉強できるし優しいし。喧嘩強いし。歌うまいし。ピアノも弾けただろ?…お前に足りないのは何だと思う?」
縁下がうーん、と悩む。自分に足りないもの…そんなの全てだと思うけど。と、思っていると二口が割り込んできた。
「自信」
「…縁下じゃないけど、いっか」
そう。縁下に足りないのは「自信」である。
「…お前去年から随分ビクビクするようになったよな。去年もだいぶ控えめな感じではあったけど。」
「…部活から逃げちゃったから」
縁下がうつむく。
「それとこれとは違うだろ。とりあえず挑戦してみろよ。」
矢巾が励ます。
「そうだな。俺らも応援行くからさ。」
二口が(珍しく)優しく声をかける。
「…そんなに言うなら行ってもいいけど…」
「ツンデレか!?」
矢巾がツッコむ。違う!、と縁下が言う。
「だって俺…先に誰かが出てないと…勇気が出ないんだもん…」
「じゃあ俺も出る!」
矢巾が言うが、白布に「お前は音痴だから無理だろ」と冷たく突き放された。
「…仕方ねぇな、俺行くわ」
そう言ったのは二口だった。
「え…?じゃあ…行こっかな…」
「決まり!」
縁下の勇気を無理やり引きずり出した一日だった。

【余談】
「…」
縁下が黙っている。
「どうした…?本当は、出たくないとか…?」
矢巾が焦る。
「……違うの…向かいの席…」
「向かいの席?」
振り向くと、向かいの席の人と目が合った。
「…向かいの席の人がどうかした?」
二口が言う。
「………黒川さん…」
「え?前主将?」
白布が訊く。
「そうだよ!!!」

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