第31話

めんどい二人
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2026/02/09 15:02 更新
この日はオフだったけど、
先輩からの申し出は断れる訳もなく…

気づいたら、先輩と一緒に仕事してた。

楽屋に入る途中、
ふいに、視線を感じて顔を上げる。


——セイトくん。


目が、合った。

最近は、
合ってもすぐ逸らされるか、
そもそも合わないか。

それなのに。

今日は、違う。

先に逸らしたのは、私の方。



鏡の前に並ぶメンバーの
メイクを落とし始める。

私も、いつも通り。

気づけば、最後はナオちゃんだった。
NAOYA
ええの? 今日オフなんやろ?
あなた
いいのいいの!メイクオフだけだしね!
NAOYA
……ふーん
あなた
(動いてた方が、
何も考えなくて済むし…)

リムーバーを含ませたコットンを
彼の綺麗な目元に当てる。

——いつも通りのはずなのに。
あなた
……あ
NAOYA
ん?
あなた
ごめん、化粧水あっちだった。
あなた
取ってくるね!
NAOYA
はーい!
あなた
(……最近、集中できてない)



鏡の中の自分は、
ちゃんと笑ってる“つもり”の顔をしてた。


そこに。
NAOYA
あなたちゃん

軽い声。

鏡越しに目を合わせると、
ナオちゃんが、鏡越しにこっちを見てた。
NAOYA
最近さ
NAOYA
元気ないやろ

一瞬、手が止まる。
あなた
……そう?
NAOYA
そう

即答。
NAOYA
分かりやすいもん

冗談めいた言い方なのに、
妙に核心突いてくるから困る。
あなた
そんなこと、ないよ

笑ってみせる。

でも。

ナオちゃんは小さく鼻で笑った。
NAOYA
ツアー中の時みたいに
NAOYA
また倒れんときや?

完全に冗談のトーン。
NAOYA
セイちゃん、あの時
NAOYA
ほんま、顔色変わってたからな

胸の奥が、一瞬きゅっと鳴った。

……そうだったんだ

でも
あなた
……はは

出たのは、愛想笑いだけ。

自分でも分かるくらい、
うまく笑えてなかった。

ナオちゃんは、それ以上言わずに、
身体ごと振り向いて、

ゆっくり、二度瞬きをする。
NAOYA
なぁ

声、少しだけ低くなる。
NAOYA
セイちゃんと、さっき話したんやろ?

こんなにストレートに言われたら、
もう誤魔化しようがない。

逃げ場、ない。
あなた
…うん

ナオちゃんが、一度だけ視線を落としてから
静かに息を吐いた。
NAOYA
やっぱりな

その一言のあと、
少しだけ間があってから。
NAOYA
あんな…
NAOYA
セイちゃん、今日…
NAOYA
いや、さっきから
NAOYA
めっちゃ機嫌ええねん
あなた
……え?

思わず、手が止まる。

ナオはニヤッと笑った。
NAOYA
なんかもうな
NAOYA
顔が“腹括った男”って感じ

……腹、括った?

頭の中で、その言葉が転がる。
あなた
……どういう意味?
NAOYA
そのまんま

ナオは、こっちを見た。
NAOYA
逃げる気、もうない顔

胸の奥が、少しだけざわつく。
あなた
(……知らない)

私は、何も知らない。
NAOYA
この間まで
NAOYA
こっちが気ぃ使わんとあかんくらい
NAOYA
不機嫌MAXやったくせに

……想像してしまう。

そんな顔。

そんな声。
あなた
……

ナオが、急に真顔になった。
NAOYA
あなたちゃんさ
NAOYA
アンタ、分かってるやろ?
あなた
……何を?
NAOYA
セイちゃんが
NAOYA
どういう男かってこと

喉が、詰まる。

分かりたくない。
でも、分かってしまう。

ナオは、ため息を一つ。
NAOYA
… なぁ、正直言うで?

そして、一気に…
NAOYA
めんどいねん!アンタら二人!!

びくっと、肩が揺れた。
NAOYA
理由とかはどーでもええけど
NAOYA
同棲して
NAOYA
離れて
NAOYA
まだダラダラして

NAOYA
曖昧にして

NAOYA
早よ、くっつき!!!!


……直球すぎる。

あなた
……な、ナオちゃん

ナオはもう止まらない。
NAOYA
アンタさ
NAOYA
セイちゃんのとこ、好きなんやろ?

断定。

問いじゃない。

逃げ場、ゼロ。

…言葉が出ない。

ナオちゃんは立ち上がって、
ドアの方に歩きながら、振り返った。
NAOYA
セイちゃんは、もう決めてるで
NAOYA
決めてる男、待たせるのも
NAOYA
酷やと思うけどな

それだけ言って、
メイクルームを出ていった。



鏡の前に、
私だけが残った。

心臓の音が、
やけにうるさい。
あなた
(……腹、括ったって)

知らなかった。

知らないまま、
私は一人で立ち止まってた。

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