この日はオフだったけど、
先輩からの申し出は断れる訳もなく…
気づいたら、先輩と一緒に仕事してた。
楽屋に入る途中、
ふいに、視線を感じて顔を上げる。
——セイトくん。
目が、合った。
最近は、
合ってもすぐ逸らされるか、
そもそも合わないか。
それなのに。
今日は、違う。
先に逸らしたのは、私の方。
鏡の前に並ぶメンバーの
メイクを落とし始める。
私も、いつも通り。
気づけば、最後はナオちゃんだった。
リムーバーを含ませたコットンを
彼の綺麗な目元に当てる。
——いつも通りのはずなのに。
鏡の中の自分は、
ちゃんと笑ってる“つもり”の顔をしてた。
そこに。
軽い声。
鏡越しに目を合わせると、
ナオちゃんが、鏡越しにこっちを見てた。
一瞬、手が止まる。
即答。
冗談めいた言い方なのに、
妙に核心突いてくるから困る。
笑ってみせる。
でも。
ナオちゃんは小さく鼻で笑った。
完全に冗談のトーン。
胸の奥が、一瞬きゅっと鳴った。
……そうだったんだ
でも
出たのは、愛想笑いだけ。
自分でも分かるくらい、
うまく笑えてなかった。
ナオちゃんは、それ以上言わずに、
身体ごと振り向いて、
ゆっくり、二度瞬きをする。
声、少しだけ低くなる。
こんなにストレートに言われたら、
もう誤魔化しようがない。
逃げ場、ない。
ナオちゃんが、一度だけ視線を落としてから
静かに息を吐いた。
その一言のあと、
少しだけ間があってから。
思わず、手が止まる。
ナオはニヤッと笑った。
……腹、括った?
頭の中で、その言葉が転がる。
ナオは、こっちを見た。
胸の奥が、少しだけざわつく。
私は、何も知らない。
……想像してしまう。
そんな顔。
そんな声。
ナオが、急に真顔になった。
喉が、詰まる。
分かりたくない。
でも、分かってしまう。
ナオは、ため息を一つ。
そして、一気に…
びくっと、肩が揺れた。
……直球すぎる。
ナオはもう止まらない。
断定。
問いじゃない。
逃げ場、ゼロ。
…言葉が出ない。
ナオちゃんは立ち上がって、
ドアの方に歩きながら、振り返った。
それだけ言って、
メイクルームを出ていった。
鏡の前に、
私だけが残った。
心臓の音が、
やけにうるさい。
知らなかった。
知らないまま、
私は一人で立ち止まってた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!