SEITO side
玄関の鍵を開けた瞬間、
部屋が、やけに静かやった。
返事はない。
何となく、そんな気がしてた。
靴を脱いで、一歩中に入る。
電気は消えてる。
でも、生活の気配は……
まだ、微かに残ってる。
ソファの上。
きれいに畳まれたブランケット。
洗い物の終わったシンクは
いつもより、妙に整ってる。
テーブルの上に、白い紙。
端が、少しだけ折れてる。
——嫌でも目に入る。
【お世話になりました】
それだけ。
名前も、日付も、
なにも書いてへん。
紙を持つ指に、力が入る。
丁寧すぎる字だけが、余計に冷たく見える。
声に出した瞬間、
自分でも驚くくらい、かすれてた。
辺りを見渡す。
歯ブラシは、一本になってる。
洗面台の端にあった小さなボトルもない。
……ほんまに、出ていったんや。
最後に、
キッチンの棚に目が止まる。
——マグカップ。
それだけが、
ぽつんと、残ってる。
あなたが使ってたやつ。
あの買い出しの日、
なんとなく彼女っぽくて
買ってしまったやつ。
落ち着くはずの家なのに、
全然落ち着かへんのが、気持ち悪い。
マグカップに視線が落ちる。
静寂。
声、ほとんど出てへん。
置いていかれたんは
……俺や。
そう思った瞬間、
胸の奥が、静かに沈んだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。