「あのなシン、永遠も無限もそんなのないんだよ。」
眉を下げてほんの少し目が潤んでいる湊さんが俺にそう言った。
『また変なこと言い出した。』
そう思っていたが、さすがに放っておけなくて湊さんが座っている椅子の隣にもうひとつ椅子を並べて座った。
「急にどうしたんですか、湊さん」
「愛ってな、限りが…あるんだよ、」
「ちょっと待ってみなとさん、ほんとにどうしちゃったんですか?」
「もう俺、疲れちゃったよ、」
「なにいってんの。」
「ごめん、しん、もう、むりだ…」
あんたのその貼り付けてるような笑顔。
見るの嫌なんだよ、
だから、
「無理して笑わないで」
「だって、最後くらい笑顔でいたい、から、」
「みなとさん、ゆっくりでいいからちゃんと話して。最後ってなに。」
「もう…っ別れよう、」
みなとさんは俺にそう言った後、先程まで我慢していたであろう涙がぽろぽろと零れ落ちてきた。
「ごめ、ん…しん、別れて、」
「どうして、ですか?」
「す、きなひとができた、から、」
「だれ、ですか。ねぇ、だれ、」
「俺よりみなとさんのタイプに合ってる人??ねぇ、だれ、だれなんですか…、」
「そ、うだよ、しんよりっ、かんぺき…」
「っ、なんで、しん、泣いてんの、」
言われるまで気づかなかった。
気づいた途端溢れ出して止まらなくなった。
こんなに泣いたのは生きてきた中で初めてかもしれない。
「や、だ、いかないでみなとさん、ずっと、俺の隣でわらって、てください…、」
「だめなとこはなおす、から、」
「ねぇ、おねがい、」
湊さんは俺を見て少し黙った。
何かを考えているようだった。
「しんと、俺は、ほんの少しだけだけど愛の重さが違う。価値も違うんだよ、」
「俺の愛は誰にも求められないかもしれないけど、しんは、たくさんのひとに求められてる。」
「俺なんかがっ、1人でしんを独占するのはまちがってる…んだよ、」
何を、、言っているんだろう。
恋人なんだから独占するのは当たり前だろう。
けどこの時は頭が回らず、
「お、れは、みなとさんからの愛しか…受け取りたくない、です…っ、」
「だから、っ、おねがい、みなとさん、いかないで、」
いかないで、
そう口にしていたはずの言葉は声にならず、
湊さんは俺から逃げるようにこの家を出て行った。
今なら追いかければ間に合う。
なのに、なぜか足が動かなかった。
湊さんが俺の隣にいることであんなに辛い顔をする、それなら俺はもう隣にいることはできない。
湊さんがそれで幸せならば。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。