僕にはね、昔、お兄ちゃんがいたんだ。
従兄弟の…とかじゃないよ。
本当の、双子のお兄ちゃん。
お父さんとお母さんとお兄ちゃん、それに僕。4人家族だった。
お父さんたちもね、そこまで仲は悪くなかったと思ってた。時々ちょっと喧嘩するくらいだなって思ってたの。
だけど、あとから知ったんだ。
そうじゃなかったって。
本当はもっと、仲が悪かったらしい。
なんでかはわからないけど。
でもまあ、当時の僕はそんなことも知らずに、今日まで続いてた毎日が、明日も続くはずだってなんの疑いもなく信じてて。
いつの間にか2人の仲は、直すこともできないほど悪化してた。
そしてある日の夜、
父が消えた。
正直、あの頃の僕は物心もついたばかりで、ほとんど記憶なんてなくて。
でも、あの顔だけは忘れられない。
怒りに歪んだ父の顔が。
苦しそうに泣き叫ぶ母の顔が。
呆然と虚空を見つめる、兄の顔が。
それから僕は、母さんの親戚の家に預けられた。時々、母さんとも会ってたし、お兄ちゃんとも…会ってたと思う。あんまり覚えられてないんだけどさ。
でも、ある時から急に母に会えなくなって……
……養母から、母さんが死んだって聞いた。
お兄ちゃんとも、会えなくなった。
今、どこにいるかもわからない。
何をしているのかも。
生きているのかすらも。
それでも、いつかまた、会いたいって。
会えるはずだって。
信じてる。
僕の、たった1人の。
『本当の家族』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。