第8話

【銀時】土蔵の中
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2017/10/09 04:56
二十年くらい前のことだ。 
俺は珍しく夜更けにふと目が覚めた。
喉が渇いたから水を飲もうと台所の灯りをつけたところ、台所に繋がっている土間の方から「スミマセン、スミマセン」と声が聞こえた。
おそるおそる土間の様子を伺うと、どうやら土間の先から繋がっている土蔵の中に誰かがいるらしい。

声の調子から女のようだが、蔵の扉には外からかんぬきがかかっていて、扉以外には人が入れるような窓も無い。 先生を起こそうとも考えたが、一度寝付いたらなかなか起きない。
相手は女、危険はないだろうと思い、俺は取り敢えず「お前誰だ?」と声をかけてみた。
そうすると、蔵からは早口な喋りで「コチラに迷い込んでしまって、出るに出られなくなってしまいました」と聞こえた。
不思議だ。
どうやって入ったのかと聞いても、「ナンマンダ、ナンマンダ」と繰り返すばかりだった。
俺はかわいそうに思い、出してやろうとかんぬきを上げようとしたが、かんぬきは何故だか動かない。
普段は1人で上げ下げしているのに、その日は重石を乗せたように動かなかった。
仕方無ぇから「俺の力じゃ開けられねぇから、先生を呼んでくる」と言うと、
「それには及びません。空が白んでまいりましたので、元来た道を探します」と聞こえた後に、
バタン!バン!と扉を開け閉めするような音がして、その後の蔵は静まりかえるだけだった。

俺が目が覚めた時、あれは夢か幻かじゃないかと思った。
先生にその事を伝えると、「銀時は狐にからかわれたんですね。」と笑った。
なんでも、早口だったり無闇に姿を見せねぇのは、狐が化けた時の特徴らしい。
松下村塾の裏手は小川が流れる森で、狐やムジナ、狸やらがいたらしい。

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