ジャンが聞いてきた。
でも答えない。
なんでかって?
それはね
ジャンに食べさせてもらいたかったから。
こんな時くらい甘えさせてね。
君はいっつもミカサミカサで、私なんてきっと眼中にもない。
こんな叶わない恋したって、意味ないってわかってる。
だから今、ちょっとずるいけど、この立場を利用して最大限の甘えを。
なんだかんだ言って、口の前にゼリーの乗ったスプーンを近づけてくれる。
パクッと咥えたゼリーとスプーンがひんやりしていて気持ちいい。
爽やかなマスカットのゼリーだった。
食べ物を所望したのは私だけど、5口目ほどでギブアップ。
ごめん、ありがとうと言ったら、どっちだよって笑われた。
その笑顔につられて私も笑った。
頭をくしゃっと撫でてくる。
少し、頬が赤くなるのを感じた。
何とかさっきよりも喋る気力が出てきて、ジャンにこう伝える。
プツンと何かが切れるような音がした気がする。
ジャンの顔が近づいてくる。
50センチ…
30センチ…
10センチ…
5センチ…
0
ジャンが手をついたベットがきしりと音を立てて、唇に柔らかい感覚。
触れただけの、軽いキスだった。
チュッという音とともにそれは離れる。
お互い顔は赤かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。