突然、背後から聞き覚えのある呼び方をされて、思わず肩が飛び跳ねた。
しかし、振り返ってみたそこには彼ではなく、いたずらな表情を浮かべる親友の姿があった。
神奈ちゃんが、ニヤニヤしながらつついてくる。
あたしは、図星だったけど恥ずかしかったから必死に手を振って否定した。
あたしはまた、否定するけど、そのあとも神奈ちゃんは、しばらくからかい続けた。
朝のHRがおわり、神奈ちゃんがあたしの隣に座って話始めた。
すると、向こうから雪矢くんもやって来た。
と、話に混ざろうとする雪矢くんを
シッシッと手を振りながら、突き返す。
つーんとしながら、雪矢くんがあたしの手をグイッと引っ張る。
雪矢くんが掴んでいるあたしの手が、熱く感じる。
と、今度は神奈ちゃんが引っ張る。
雪矢くんが、椅子の背もたれを前に腰かけて、ゆらゆら揺らす。
神奈ちゃんが、ムスッとした顔から何か思い出したように言って、こう続けた。
(あ、あたしも気になっていたけど、なかなか聞けなかったなぁ…)
もともと神奈ちゃんは雪矢くんと去年から知っていて、このクラスになってから雪矢くんに会った私は初めは普通に「月野さん」って呼ばれていた気がする。しかし、よく話すようになってからいつの間にか「リンゴちゃん」と呼ばれていた。
雪矢くんも、ひらめいたような顔をする。
(え?)
あたしも神奈ちゃんもあたしの靴下を見る。黒地にワンポイントのちっさなリンゴが入った靴下。
(これのことだったのかぁ…)
リンゴなんて、思い当たる理由がなかったので、やっと納得出来た気がした。
雪矢くんの言葉に、神奈ちゃんが反応する。
そう言って、子どもみたいに笑った。
あたしは、その笑顔にドキドキして雪矢くんから目が離せなかった。
神奈ちゃんは、一人で
と、何やら一人ため息をついていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。