外はすっかり暗くなり、
今はつかの間の静けさを味わう事が出来る。
見つけたノートをパラパラと捲りながらそう呟いた私は、あるページで固まった。
それは、太平洋戦争についてのページ。
見慣れたノート、見慣れた文字の中に、
見慣れない文字が並んでいたからである。
日本語だ。でも。
なんて読みにくいンだろう。
カタカナと漢字だけで彩られたその文章を、
私はゆっくり読み上げた。
いきなり否定されて、少しムッとする。
小さく呟きながら、やっとの事で読み終える。
そこに記されて居たのは、嫌悪。
『嘘だ。日本は戦争に勝っている。
皆そう言っている。
ここに書かれた事は全て嘘だ。
そんな事は有り得ない。
天皇陛下が嘘をおっしゃるわけがない。
日本は負けない。日本は正しい。
お前は非国民だ。』
子供が喚いているようだ。
実際、日本はアメリカに負けているじゃないか。
そんなの、小学生でも知ってる。
非国民だが何だが知らないが、
人のノートにこんな落書きをするなんて。
そのページを、びりっと破いて捨てた。
酷く気分が悪い。
明日、ノートを見つけた神社に行ってみよう。
もしかしたら、犯人がいるかもしれないから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!