「亜紀…?」
「なっ…!そんな都合良く…?!」
私は驚いて、思わず差し出されたカードをまじまじと見つめる。
その光景に、先輩も声を上げていた。
亜紀のカードはKだったのか。
そう言えば、そんな話をした気もする。
「これ…私の、カードなの。私…K持ってた。だから、これ使って戦って…!」
「亜紀…ありがとう…!」
助かった、と思った。
感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
私はそっと、差し出されたカードに手を伸ばした。
すると。
「あああぁぁぁぁぁっ!!?」
亜紀が叫ぶ。
血が飛び散る。
顔にかかった それ は、
まだ生暖かくて。鉄の匂いがした。
あまりの出来事に、思考が停止する。
そのせいで、反応が少し遅れた。
「ひっ…い、いやぁぁぁぁ!!」
正気に戻った私は飛び退いて尻もちをつく。
何で、何で亜紀がこんなことに?
亜紀はこのゲームには参加してない筈なのに…!
「ふっ…ははは!あっはははは!!」
突如、先輩が声を上げて笑い出した。
お腹を抱えて、それはもう心底愉快そうに。
「何で…亜紀に何したの!!何で亜紀がこんな目に合わなきゃいけないの?!亜紀は…私を、助けようと…!」
「だからだよ。ゲーム中のプレイヤーにカードを渡すのはルール違反だ。つまり、そいつは菜波が…」
「もうやめて!!!」
叫んで、血まみれの手で顔を覆った。
酷い匂いだ。頭が痛い。吐き気がする。
亜紀は、私のせいで…
私が……殺した。
「ああああぁぁ…っ」
喉が痛い。どこかで叫び声が聞こえる。
体内の水分が全部無くなっちゃうんじゃないかってくらい、ボロボロと涙が零れ落ちる。
喉が痛い。叫んでいるのは私だった。
「これじゃ、ゲームにならないね。ならこのゲームは俺の勝ち…もちろん、約束は覚えてるよね?」
先輩がこちらに近づいてくる。
……私の、負け?
亜紀は最後まで、私を信じてくれていたのに?
私は、それを、裏切るの?
「………」
黙ったまま顔を上げて、こちらに向かってくる先輩を見やる。
…悲しみにくれるのは、この先輩を倒してからでも遅くはないんじゃないだろうか。
私はそっと、涙を拭った。
「私は、私を信じてくれた亜紀の為にも、黙って負けるわけにはいかないの…
だから……
ここで先輩を、倒す。」
そして、私はクラブのKを眼前に掲げた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。