#「紅く染まる前の話」ヤエ夢
違うんです。
リクエストいただいた話を
書こうとしていたんです。
「ヤエ・テンゼン」でヤエちゃんに脳を焼かれて
ヤエちゃんのことしか考えられなくなったんです……
・ 「ヤエ・テンゼン」ネタバレしかない
・ 解釈違いの可能性大!!!!
・ 夢主が死にます
・ あんまり甘い展開じゃない
死にたかった、なんて言葉を吐くのは、
生きたくとも身体が耐えられず死んでいった
同輩たちを思えば、生涯できる気はしない。
運が良かっただけだ。
それ以外、私と同輩に何ら違いはなかった。
たまたま、
私が何一つ覚えていない親の遺伝子のおかげで
シノビの訓練に耐えられる肉体を持っていただけ。
それを、その運をどれだけ彼らが望んでいたか。
ああ、どうか、願わくば。
私よりもずっとずっと強くて、
もっともっと才能があって。
死がすぐ後ろに付き纏うこんな世界で、
絶対に死なない____ずっと生きててくれるような。
そんなシノビと、出会えますように。
そう願っていた私が、
誰より強く、才能があり、
一度たりとも死を想像させなかった彼女を
特別に思ってしまうのは、きっと必然だったのだろう。
◇
少しでも速く足を動かそうと。
少しでも多く脳に酸素を回そうと。
少しでも早く、彼女に会いたいと。
口を開けて酸素を取り込みながら、そう走り続けた。
涙を拭って、嗚咽を押し殺しもせず走った。
シノビ失格だと罵られていい、
どうせ私のシノビ人生はここで終わるのだから。
フジロウ・テンゼンによって実行された『蟲毒』。
私たちシノビが命をかけて争う___というのが、
私の中で整理したこの状況の全てであった。
まぁあの人のことだから、
私たち彼女以外のシノビは全て
彼女を期待通りの存在にさせるための駒であり、
その為に死ねというのが今回の儀式の全貌であろうが。
私に、生き残るつもりはなかった。いや、
自分が生き残れるとは到底思えなかった。
だって、こんなに痛かったから。
痛みには慣れている方だと自負していたが、
それはあくまで肉体的な痛みに限る話だったらしい。
身体中が痛んでいた。
けれど、それよりずっと心が痛んでいた。
きっと、同輩である彼らにとって
私は何ら特別な存在ではなかったのだろう。
何の感情も別に抱いてはいない、
ただ一緒に訓練をこなしてきただけの相手。
それでも、私にとっては、違かった。違かったのだ。
嫌いじゃなかったし、好きだった。
誰も死んでいいと思えるような人はいなかったし、
私が殺すなんてこと、本当はしたくはなかった。
殺されかけた。だから、殺した。
それだけだ。それだけのことが、私は耐えられなかった。
とことんシノビには向いていない人間だったのだろう。
なんとか子どものような我儘は押し殺して
シノビらしくあるように振る舞ってきたが、
どうやらここまでのようだ。私はそこまでの人間だった。
視界に、赤が映る。
気が抜けたのだろう。
特別で、愛しい彼女の赤が目に映って、
無意識に安堵の息を吐いてしまったから。
迫り来る仲間の刃に、
いとも容易く腹を裂かれた。
彼女は私の声に振り向いて、
それからこぽこぽと腹から流れていく
鮮血を目に映した。
彼女はそれにすら何一つ表情を動かさず、
私に手を差し伸べるでも、
私の腹を刺した男と戦うでもなく、
ただ眺めていた。
安堵して命を散らす、シノビ失格の女の姿を。
まぁ数秒後、当然のように彼女にも刃を向けた男を
彼女はなんの躊躇いもなく返り討ちにしていたが。
少量ならば自力で止血もできたが、
ここまでくると流石にそれは叶わない。
まぁ、喉を突かれなかったものだから
こうして最後に話せる状態にあったのは幸いだろう。
それもあの男が私に刃を向ける数秒前、
腕を怪我させられていたのか
筋肉が上手く言うことを効かなかったからであって
決して私が誇れることではないのだけれど。
あ。
無表情だったはずの彼女の目に、
かすかに軽蔑が混じっているような気がする。
なんだか少し嬉しくなって、「ふ」と
吐息に限りなく近い笑い声が漏れた。
私がゆっくりと失血死する光景を、
彼女はただ眺めていた。
◇
ゆっくりと体温を失っていくこの女のことを、
決してヤエは好きなわけではなかった。
どちらかといえば関わりたくはなかったし、
自分を見た瞬間緩む口角を
他のシノビに見られないよう隠していたのが
ひどく馬鹿馬鹿しかった。
何も思わない。
根本的なところからシノビに向いていない
この女が絶命しようと、ヤエは何も抱かない。
ただ、慣れたはずの死体の匂いが、鉄の匂いが、
ひどく鼻にこびりつくようで不快だった。
思い返してみると、この女は
自分が抱く特別でヤエに迷惑をかけないよう
ずっと隠していたのだと気がつく。
そして、慣れたため息を吐いた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。