第16話

新しい一歩
853
2021/10/26 09:12
-轟side-


(あいつ、何で個性使わないんだ?)

この疑問は緑谷に向けたものなのか
海凪に向けたものなのかわからない。

だが、個性把握テストの時のことを考えると
緑谷が個性を使っていない理由はなんとなくわかる

ボールを投げた後、
緑谷の指は赤く腫れあがっていた。
きっと個性を使った反動なのだろう。
それに今緑谷は個性を使わずとも
爆豪に立ち向かっている。


反対に海凪は
ずっとその場に立ち止まったままだ。

とくに緑谷と爆豪の間に
入っていくわけでもなく、
核兵器のある場所に向かっているわけでもない。

ハンデはあるが
戦うことは許されているはずなのに
ずっと下を向いたまま動く気配がない。


(推薦入学者ってのは、本当なのか…?)


「あなたちゃん、どうしてなにもしないのかしら…」
「さっきからずっと下向いたまま立ちどまってるけど…?」


この疑問を抱いたのは俺だけじゃない
みんなの頭の中にははてなが浮かんでいる

「彼女は過去に自分の個性で辛い経験をしているから、戦闘することをためらっているんだろうな」

みんなの疑問に答えるように
オールマイトが口を開いた

「辛い、経験…?」

「細かくは言えないが、彼女はトラウマを抱えてるんだよ。でもそれを乗り越えるためにこの学校に入学を決めた」




その時、



『出久くん!!!!』




海凪が突然爆豪の前に飛び出した
同時に大きな水流が発生して
モニタールームへとつながるカメラに直撃する

「わっ?!」
「何々?!」

突然の出来事にモニタールームにいる
クラスメイトは驚いた顔をしている

何が起きているのか見ようとするが
水が直撃しているせいで画面の向こうで
何が起こっているのか分からない。




『大丈夫?!出久くん!!!』




やっと見えるようになった画面を見ると、
そこには突き当りの壁に
勢いよくぶつかってよろけている爆豪と、

緑谷の前に立っている海凪の姿があった。










−あなたside−



『大丈夫?!出久くん!!!』

思い切って爆豪くんの前に飛び出して、
個性を発動させた。

私の右手から発生させた水流は
大きな渦を巻いて爆豪くんに直撃、
そのまま突き当たりの壁まで
勢いで押しやった。

ひとまず爆豪くんの攻撃を止めた私は
出久くんの側に駆け寄る。

「あなたちゃん…!?」

『ごめん、遅くなった!…で、これからどうする…?』

もう残り時間も少ない
敵チームを捕まえるよりも
核兵器を回収しに行く方が賢明だろう。

でも、ここから真上に行くには
爆豪くんの前を横切って行かなければならない。

だからといって私達が今から
普通に上の階に向かったところで
間に合うとも思えないし、
飯田くんに既に見つかってしまっている
お茶子ちゃん一人で核兵器の回収するのも難しい。

「この方法は使いたくなかったけど…、ある…勝つ方法が」





「おい、今の…って、あいつどこ行った」

爆豪くんが体制を整えてこちらに向かってくる前に
私は曲がり角の向こう、
爆豪くんからの死角に隠れていた。

出久くんが言っていた作戦が上手くいけば、
勝利の可能性はまだある。

「それよりてめぇ何で個性使わねぇんだ。俺を舐めてんのか!?…ガキの頃からずっと!!そうやって!!!」

「違うよ」

「俺を舐めてたんかてめェはぁ!!!」

ここから爆豪くんの姿は見えないけど、
この話し声を聞くだけで
相当感情がたかぶっているのがわかる。

「君がすごい人だから勝ちたいんじゃないか!勝って、超えたいんじゃないかバカヤロー!!!!」

「その面やめろやクソナード!!!」

(出久くんのあんな顔、初めて見た…)

先程まで爆豪くんの方が勝っていたのに
今は出久くんより爆豪くんの方が
余裕がないように見える。

2人が何を抱えているのか、
今までどうやって過ごしてきたのかは
私にはわからない。

けどこれは…この戦いは、

2人にとって、


出久くんにとって必要な事なんだろう。






「2人とも行くぞ!!!!」






「はい!!!」
『おっけい!!』












「デトロイト…スマーーーッシュ!!!!」



出久くんの合図とともに
私は爆豪くんと出久くんのそばまで行き
個性を発動させ待機する。

初めて見た出久くんの個性。

出久くんが天井に向けて拳を向けると
真上の天井に勢いよく穴が空いた

粉々になった真上の天井の
破片がそのまま上の階へと飛び散って行く。

それと同じタイミングで
私はその空いた穴から上の階へと移動する。
天井の破片と風に左右されないように
自分の周りに渦巻く水でドームをつくり、
床に向けて勢いよく水を噴射することで
そのまま5階フロアへ降り立った。


『お茶子ちゃん!!行くよ!』

大きな柱を手に持ったお茶子ちゃんに合図をする




「うん!!飯田くん!ごめんね、即興必殺彗星ホームラン!!」




そのままお茶子ちゃんが
砕けた天井の破片を柱を使って
飯田くんに向かって野球のように打っていく

「ホームランではなくないかーーー!?!?」



私は咄嗟に宙にあった破片一つ一つを
水から作り出した泡でコーティングして
当たっても怪我をしないようにした。

見た目は意味ないように見えるけれど
私の作る泡はクッションのように
普通に触れるくらいの柔らかさだ

個性で飛んでいる
お茶子ちゃんの背中に向かって水を放ち、
核兵器のある場所まで勢いよく飛ばす。



「回収!!!」

「ああーーーーーー核ーーー!!!」

《ヒーローチーム…WIーーーーーーN!!》

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