春川さんはたまに言葉が途切れることがある。
その時、表情はいつもの笑顔ではなく口角が少し下がり目元が少し...無気力に見える。
この減少は自分にもたまに...というかよく起こる。
話すこと自体に慣れていない自分は気を抜くと声のトーンやテンションも少し下がってしまう。
なのでなんとなくわかってしまった。
いつもの頼りになり、友好的で気配り上手な春川さんは"演じられたもの"。
理由は知らないが無理しているようで、こんなことを言ってはいけないし、そもそも自分が元々似たような状況だったので言えるような立場じゃないけど...
いつも人の顔色を伺っているようで、
そう思ってしまってる自分が居た。
また休日、一緒に遊びに行くことになった。
前でやってた人が終わり交代してもらう。
百円ずつ入れてゲームがスタートする。
怜央とやったときに力が弱すぎて判定されなかった事があってから少し特訓したのは内緒だ。
太鼓楽団が終わり疲れた手をぶらぶらさせながらふと気になったことを聞いてみる。
「やるのはJ-POPだけだけどね」
そういった春川さんの表情は少し曇っている。
プリクラ...ということは他の陽キャ友達と来た時にやったのだろう。
ボカロを知らない人でも太鼓楽団は有名だしそこらの陽キャでもやっているだろう。
J-POPだけ...
どうしてボカロが好きなことをそんなに隠したいのだろうか...
帰り道、ずっと気になっていたことをとうとう口に出した。
肯定し、無責任な言葉を並べる。
どんどんヒートアップしていく。
止めないと...
でももう...
止まらない。
ブレーキがかからないままついに一番触れてはいけないように触れてしまった。
駄目、言ったら駄目。
抑えろ自分...
あぁ...言ってしまった。
言った瞬間今までの勢いが嘘のように消え、ひたすら負の感情が湧き上がってくる。
そのままその場を走って逃げ出してしまった。
普段から人と目を合わせて会話のできないため下を向いていたから春川さんの表情は見えなかった。
いや...そんなの言い訳か...
怖くて見ることができなかっただけだ。
春川さんは追いかけてこなかった。
つづく
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!