焚き火の炎が、
じり…と音を立てる。
「ああ、いい音だな…」誰かがぽつりと呟いた。
あたりはほのかに温かく、
それ以外は夜の冷気と緊張に満ちていた。
焚き火のそばで、
クリスが低く仲間に指示を出す。
ピアーズが頷く。
あなたはその輪の外に、小さく座っていた。
膝を抱えるようにして、
火の明かりに背を向けるように。
通りすがりに、
隊員のひとりがそう声をかけた。
小さく笑って、首を横に振る。
アメリカ出張の付き添いで
日本から来ていた彼女が、
突然バイオテロに巻き込まれてから、
まだ一日も経っていない。
街は崩れ、怪物が徘徊し、人が死に…
何もかもが現実味を帯びていなかった。
クリスの声が、ふいに静けさの中に落ちた。
彼女はそっと顔を上げる。
避難用のヘリは墜落。
今は、彼女を救助したBSAAの部隊とともに
行動している。
クリスは疲れた目をして、火に薪を足した。
プロフェッショナルな彼らに
守られているはずなのに、安心はしていなかった。
銃声も、叫びも、思い出すたびに
胃がきゅっと縮む。
それでも彼女は笑顔を作った。
差し出された紙コップを受け取って、微笑む。
「熱いから気をつけてな」
そう言ったのは、若い隊員だった。
中にはコーヒーが入っていた。
温かくて、香りは良かった。
でも.....
ほんの一口、口に含んだだけで
顔が歪みそうになった。
けれど、そっと目を伏せ、
何事もなかったように膝のあたりを見つめる。
その様子を、少し離れたところから
ピアーズが見ていた。
仲間と同じように焚き火を囲んではいたが、
目線だけは彼女を追っていた。
一瞬の顔の変化。無理に作られた笑み。
何かを隠すような沈黙。
彼は立ち上がり、湯を沸かし始める。
隊員の軽口に、彼はさらりと返しただけで
湯の準備を続ける。
手際よく粉を入れ、軽く混ぜて、
小さな湯気が立ち上る。
出来上がったそれを手に、
彼は彼女の隣にそっと腰を下ろす。
驚いたように彼を見る彼女の前で、
彼は何も言わず、彼女のコーヒーと
自分の持ってきたカップを入れ替える。
ぼそりと、彼はそれだけ言った。
その動作はとても自然で、
周囲の誰も気づかないほどだった。
彼女は思わずその温かいカップに口をつける。
とろりとした甘み。ミルクの味。
そして、ほっとする温度。
彼女はカップを見つめて、顔を上げる。
ピアーズはその横顔を見て、微かに笑った。
焚き火の音と、遠くの不気味な静けさの中で、
二人は黙って座っていた。
あなたは彼を、最初はただの兵士として見ていた。
冷静で、無駄がなくて、ほとんど笑わない人。
でも今は違って見える。
彼はきっと――見てくれている。
無理して笑ってることも。
言葉が上手く出せないことも。
それでも、ちゃんと気づいて、
何も言わずに隣に座ってくれる人。
彼女の胸の奥が、少しだけふるえた。
怖い夜の中で、
それはほんの少しだけ温かくて、
ほんの少しだけ――心強かった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!