第47話

42話
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2025/06/29 12:09 更新
虹色の光が私たちを包む。ワープポータルが私たちを、雨の国の王を、妖魔兵を、そして捕らえられたレジスタンスを霧の国まで運んでいく。

数秒間ワープポータルの上でじっとしていれば、光が完全に消え失せる。何回使っても慣れないポータル酔いに顔を伏せながら、姉の後を追うように足を進め始めた。

菓子
……


私たちの目の前にそびえ立つのは、この霧の国の象徴とも言える最重要建造物────断罪の塔。

常に国を覆っている霧は、この場所だけ一層濃くなっているようだ。塔の頂点は深い霧に隠れて見えなくなっていて、塔の周辺は私たち姉妹が暮らしている監獄街よりも息苦しいような気さえする。

決して囚人として来たわけではないのに、塔の威圧感を前にして、隣に立っている姉が身体をこわばらせた。

ガンマス
へぇ、ここまで間近で塔を見るの初めてです
Sレイマリ
随分暗いですね……うわっ虫いる!


相変わらず呑気なことを言っている用心棒たちは置いておいて、姉のことを横目で見やる。

茶子の視線は、捕らえられたレジスタンスの二人に向いていた。それは心配そうに、何か自分にできることはないかとでも言うように。

……あなたが、気を揉む必要なんてないのに。

グラーツ
おい、中に入るぞ


手錠をかけられたレジスタンスの二人は、妖魔兵に拘束具を引かれるまま、塔の中へと歩いて入っていった。もう抵抗をしても無駄だと悟っているらしい。その足取りに躊躇う様子はない。


茶子が彼らに追いつこうと小走りになる。

けれど、私はその肩をそっと掴んだ。

どうして止めるの、とでも言うように茶子が振り向いて私を見る。グラデーションの瞳が揺れる。

菓子
……もう十分でしょう


声が不自然に固くなる。

茶子を傷つけたいわけじゃない。むしろその逆だ。どうしようもなく大切で、愛おしくて、守りたいからこそ、厳しい口調になってしまう。

菓子
早く帰りましょう
菓子
……これ以上ここに居たら、ダメよ
茶子
……どうして?
菓子
どうしても何も──
茶子
わたすたち、まだ誰も助けられてないわ
菓子
だから、私たちがこれ以上関わる必要は、








茶子
……菓子








茶子の声が違う雰囲気を帯びる。さっきまで揺れていた瞳は、今はもう冬の湖面のように凪いでいる。

その瞳が、私を射抜いた。



茶子
──まだ誰も助けられていない
茶子
最初にそう言ったのは、菓子よ?
菓子
ぁ……


それは、雨の国で私が言った言葉。レジスタンスが地下水路を抜けたあと、私が茶子に言った言葉。

まだ誰も助けられていないと、だから私たちは霧の国に帰らずに王の元へ向かわなければならないと、私は確かにそう言ったのだ。



……わかっている。私の言動は矛盾している。

最初、茶子がレジスタンスを助けようとしたとき、私は茶子のことを止めた。危険になるのは茶子だったから。

けれど、レジスタンスの二人が王に捕らえられたとき、私は彼らを生かそうと王の元に向かって、彼らの処刑までの期間を延ばすように提言した。そうしなければ、彼らはすぐに殺されてしまっただろうから。

そして今、私はレジスタンスを助けようとしている茶子をまた止めようとしている。

茶子
……ねぇ、菓子は何がしたいの?
菓子
…………私たちは、御茶屋一族の娘で、
その任務を果たさなきゃいけないから
茶子
そうじゃない


いつになく強い口調で遮られて、口を噤む。

俯きがちになっていた視線を恐る恐るあげれば、茶子は不思議な表情をしていた。どこか怒っているような、どこか悲しそうな、それでいて慈しむような、そんな顔。

茶子
……わたすは任務がどうこうじゃなくて、
“菓子が何をしたいのか”を聞いているの
菓子
…………それ、は……


……私は、何がしたいのだろう。

こんな危険なところから離れて早く帰りたい? それともレジスタンスを可能な限り助けたい?

考えてみれば、答えは簡単に見つかった。

菓子
……私は、茶子を守りたいだけ


ぽろっと口からこぼれた本音。
一度溢れてしまえば、想いは止まらなくて。

茶子の首に手を伸ばして、ぎゅっと強くその身体を抱きしめる。驚いたような声が茶子の口から漏れたのにも構わずに、ひたすら言葉を重ねる。

菓子
……大事よ、茶子。誰よりも大事
菓子
だから、危険な目に遭ってほしくないの


ふと、背中に優しいぬくもりが触れた。一定のリズムで優しく私の背中をさすっているそれは、私が今まさに抱きしめている茶子の手のひらだった。

茶子
……ごめんね、菓子
こんな心配ばかりかけちゃって
茶子
わたす、酷いお姉ちゃんね
菓子
ちが──


思わず身体を離して否定しようとする。茶子を酷い姉だなんて、そんなこと思ったことない。

けれど、予想に反して茶子の表情は自分を責めるような表情ではなかった。

むしろ、どこか強さを帯びているような。











茶子
……だったら、菓子が心配しているようなことにならないように、目撃者を全員消しちゃえばいいのよね?
菓子
…………えっ?
茶子
うん、レジスタンスを助けても目撃者がいなければ罪に問われないわよね! だから目撃者を【自主規制】して【自主規制】して【制限】すれば問題は……!
菓子
ちゃあこ言葉遣い!!
ガンマス
お、そういうのなら私の得意技ですよ!
Sレイマリ
というかさっきから空気を読んで黙ってた自分たちのこと褒めてほしいですー


あ、これ私が三人の暴走を止めないといけないのかもしれない。はたとそのことに気づいて思わず脱力する。

ガンマス
じゃあそろそろ入りますか!
Sレイマリ
ここらへんの虫どうにかなりません?
茶子
ほら、菓子も行こ?


……まぁでも、こんなのも悪くはないかもね。

菓子
ええ、行きましょうか、ちゃあこ


差し出された姉の手を取って、小さく笑った。




















読んでいただきありがとうございます!

そしてだいぶ遅くなってしまったのですが、ここで私とこさげちゃんが共同主催をした小説コンテストの受賞作の宣伝をさせていただきます……!



【最優秀賞】
粗玲さんの『今は亡き命へ』です。
すごい作品です。本当に語彙力がなくて申し訳ないんですが、すごい作品です。是非読んでほしい。
死者を蘇らせたいレイラーさん、それを否定するめめさん、その師弟のすれ違いなどが魅力の作品です。私も非常に続きが気になっています。
またとても文章が美しいので、単純に文章を読むのが好きな方にもおすすめしたいです。



【千々賞】
ゆきゆきさんの『拝啓、迷子のあなたへ』です。
一旦あらすじを読みに行きましょう。あらすじからすごいです。感情がとても伝わってきます。
更にそこから一話を読みましょう。一話で絶対に引き込まれると思います。メインのウパラテだけでなく、その他の登場人物もとても生き生きしていて、どんどん続きを読みたくなる、そんな作品です。

その他受賞作品、参加作品もとても素晴らしいものばかりでした! あと幾日かコンテストリンクは残しますので興味がある方は覗いてみてください!




そしてFAの紹介です!
柏餅さんのInstagramアカウント→@kashiwa0505

柏餅さんからみぞれさんのFAをいただきました! 数話前のシーンのFAとなっています!
これでなんと全員のFAが届いたという……!


くらげぴぴちゃんのTwitterアカウント→@kuragepipi

また、くらげぴぴちゃんからもウパさんとラテさん、ラテさんのFAをいただいています! ここには載せていませんが、色差分もありますのでそちらは設定資料集に!


更に更に、相互ちゃんからオリキャラ『ミハイル』のFAもいただいています! こちらオリキャラのイラストを見るのが苦手な方がいるかもしれないので、設定資料集のみの公開となっております。

よろしければ是非設定資料集までおいでください!

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