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第3話

Prologue
93
2026/03/15 12:32 更新
後宮の南側、上級妃たちの宮が勢揃いする区域。
その一角に、上級妃の宮に見劣りしない美しい棟があった。

その名も、《月花棟》。

棟の中でも広い敷地。
贅を尽くした、豪華でありながらも上品な調度品。
ツキミソウが至る所に植えられた、風流な庭。
そこを訪れた誰もが、この棟の主人はどれほど美しいのだろうと想像する。
入ってみては如何だろう。
階段を登り、少し進んだ先に一層豪華な一室がある。

そこにあるのは、ツキミソウが生けられた花瓶があり、その横に豪華な寝台がある。

そして、その寝台の傍には、1人の妃の肖像画があり。

この部屋、この棟の主人は、大体寝台に寝そべり、肖像画をうっとりと眺めている。
主人の名は、あなたの苗字あなたの下の名前。
その名がまさに相応しい、《誰もが見惚れるほど美しい》と囁かれた愛らしい妃。
淡雪のように白く、透き通った肌。
色素の薄い、窓からの光を反射して輝くさらさらの髪。
硝子玉がらすだまのように美しい瞳。
華奢でありながら、胸元は豊かな女性にょしょうの夢を体現したかのような肢体。
この茘の国の血と、北方の民族の血が入っているであろう、異国情緒溢れる少女。
黙ってさえいれば人形のように美しい、数え18であるはずなのに大人びた、中級妃。
(なまえ)
あなた
あぁ〜梨花リファ様ぁ〜…今日も麗しいですわぁ〜
しかし、話す内容の精神年齢は12歳程度であった。
犀
…あなたの下の名前様
そばに控えていた侍女頭らしき少女が、咎めるような声を出す。
(なまえ)
あなた
なぁに?
声すらも透き通った、美しい声。
犀
とぼけたって無駄ですよ…梨花妃の肖像画でにやにやするのはやめてください。気持ち悪いです
(なまえ)
あなた
梨花様は神と等しく尊い存在よ????
神仏を崇めるのと何が違うのかしら?????
彼女は重度の梨花オタクだった。
取り返しのつかないくらい。
犀
あなたの下の名前様が、梨花様を好きでいらっしゃるのも、知っています。…しかし

セイは、少しだけ言い淀んだあと、呟く。

それは、あまりにも残酷な言葉だった。


犀
あなた様は、帝の寵妃なのです



あなたの苗字あなたの下の名前。
帝のお通りが1週間絶えたことはないと言われるほどの寵妃。
家柄も名持ちの一族《あなたの苗字の一族》と申し分がなく、きっといつかは上級妃となる娘だ。
例え彼女が、自由を望み、梨花を敬愛していたとしても。

すべてが、「はしたない」の一言で片付けられる。
(なまえ)
あなた
……分かってる
あなたの下の名前は、重々しく呟いた。
仮にも、貴族子女教育を受けてきた淑女だ。
犀
(ーーーーー言い過ぎた)
しおらしい彼女の姿を見て、犀は少しだけ自分の言葉選びを後悔した。
自分がどれだけ彼女を敬愛して、彼女を上級妃にしようと奔走しても。

結局、彼女の邪魔にしかならないのであろう。
面倒な主人だと思う。

たとえ本家本流当主の娘だからと言って、ここまで尽くす理由は、多分、ない。


しかし。



自分が、自分の家が、彼女に救われたことがあるから。
だから、犀は、彼女に尽くすことをやめられない。

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