私は、夢を見ている。
昔の夢だ。歌に初めて触れた時の夢。
ああ、ほら、楽しそうに笑う当時の私がそこにいる。
あれ、意識がある夢のことを何と呼ぶんだっけな。
今の私は、幽霊になったかのように誰からも認知されず、ただ昔の私がはしゃぐのを見ていた。
音楽が、私を変えたその瞬間は、今でも覚えている。
私の世界を色付けたのは、紛れもなく音だった。
なんだか、心が躍るような、思わずリズムを取りたくなるような、そんな感動。
私、これがやりたいんだって、心の底から強く思った。
歌うことが好きだった。
これは、歌えなくなった私の、過去の話だ。
アイデンティティは音しかなかったのに、それでも音楽を諦めた、負け犬の私の話。
そしてこれは、音楽に救われた、私だけの話。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。