第19話

おまけ「11月11日 盲ろう少女」
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2021/11/16 10:51
「ぉにぃちゃ…!」(お兄ちゃん!)
優樹に服をつままれて声をかけられる。
「ん?どうした優樹?」
「きょっはなぁにする?」(今日は何する?)
「うぅーんそうだな……」
優樹の手術が終わってから早数ヶ月…。
だんだんと優樹も喋れるようになってきて、
よく俺に自分から話しかけてくれる。
まだ退院できないとはいえ、こうして遊びたがっている様子を見ていると体調も悪くなさそうだ。
「朝陽くん…!朝陽くん!」
「あっ看護師さん。どうかしたんですか?
ちょっとまっててな、優樹」
優樹はうまく聞き取れなかったのか不思議そうな顔をして俺を見送る。
少し申し訳ないけどきっと話は少しだけだから後で思いっきり遊んであげよう。
「朝陽くん今日って何の日かわかるかしら」
「11月11日……あぁ…某お菓子の日ですね」
「その言い方変じゃない…?まぁいいわ、
そう、その某お菓子の日よ!」
あっ…俺のノリに付き合ってくれた…。
この人も優しい人なんだな……。
「朝陽くんって高校生くらいよね?
だから…!ほらこれ、彼女とか同級生とかと楽しんでね」
「あ、ありがとうございます…」
うぅ…看護師さんの優しさはありがたいけど俺にとっては少し……なぁ…。
一応某お菓子はもらったけど使い道ないな。
俺で1人寂しく食べてるか。
「ぉにぃちゃ!!あそぼぉ!」
「あぁ、ごめんな優樹」
あっ!そうだ!!
「優樹、お口を開けて、目瞑ってて」
「おめめ?いぃよ!」
あーんと、大きく口を開けて目を瞑る。
か、かわいい…。周りの環境が良くなってから、優樹の可愛さは格段に上がっている。
「へへ!まぁ!?」(あれ!まだ!?)
「ごめんごめん!今入れるね」
これを写真に撮れなかったのは少しもったいなかったけれど、優樹が待ちきれないと言う顔をしていたから早く入れてあげることにした。
某お菓子を優樹の口の中に入れてあげる。
「ほら、どう?美味しい?」
「うぅ!!えっ!おぃしぃ!!」
優樹はほっぺたに手をあてながら、満足げに
笑っている。
俺には彼女なんていないけど…
今は…優樹の笑顔が見れるだけでいいかな。
ーーーーーーー
「ただいまぁー」
「おにーちゃーん!!!!」
「ちょっ!
危ないって何度も言ってるだろ?」
えへへとも言いたげな顔をしながら俺に向かって全速で走り、突撃してきた優樹。
「あのな優樹、お兄ちゃんはお前のことを考えて言ってるんだぞ?」
「いいからいいから!!
お兄ちゃん早くソファー座ってよ!」
なんか今日はいつもより押しが強い気が…。
少し優樹の様子を伺いながらも、俺はソファーに座る。
ネクタイを少し緩めて、オフのモードに切り替える。
「で、優樹は何がしたいの?それか悪さでもしたの?」
「ううん!違うよー!
ほらこれー!今日は某お菓子の日ですよ!」
冷蔵庫から取り出してきて、俺の隣に座った優樹はテンション高めに言う。
「何でそんなにテンション高いんだって…
本当に悪さしたんじゃないのか?」
「へへっ、違うって言ってるよぉー!
ほらお兄ちゃん!ポッキーゲームしよっ!」
「………はぁ?」
……??ポッキーゲーム?
いやまさか…優樹がそんなことを知ってる
わけないよな?
「ほらほらー!!お兄ちゃんチョコの方咥えていいからー!はやくはやく!」
いやこれガチなやつじゃん……。
でも優樹がこんなことする子だとは思わない
何でこんなことしてるんだ?
「お兄ちゃんのためにいいポッキーにしてきたんだよ?ほらほらー!」
いいポッキー…?いつもの味じゃないのか?
「なぁ優樹、そのパッケージ見せてみ」
「ん!これだよー」
優樹はポッキーを咥えたまま、俺にパッケージを押し付ける。
「あぁ……これのせいか…」
俺が見たパッケージの表紙には『ラム酒味』
と記されていた。
これは数%のお酒しか入ってないけど…。
「酔ったんだな…優樹…」
「ふぇ?」
あぁ……これはだいぶダメだな…。
「ほら、優樹お布団行って寝ようなー」
「いやだー!いやだよ!!お兄ちゃんとポッキーゲームするのぉー!」
「ダメだ、ほら毛布かけてやるから」
「嫌だもん……いや…だ……ムニャムニャ」
「はぁぁーー」
本当に酔ってるだけっぽかった…。
優樹があんなになっただけでめっちゃ疲れた…。
俺も今日は早く寝よーかな…。
ーーー
もうお酒が入ったお菓子や、お酒は優樹に食べさせないようにしようと誓った朝陽お兄ちゃんの11月11日のお話。

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