第177話

『義勇』
8,408
2020/12/06 17:00

三郎さんや遥音さんの村の美しい炎に背を向け、

ゆっくりと足が進められていくのが体が揺れることで分かった。


(い、嫌…です、)


瞼が徐々に視界を狭めていく最中、声も思うように出ない口を微かに動かす。
あなた

い、や………で…。




私はもう、

会えないのだろうか。






永くは続かまいと覚悟していたあの幸せな日々には戻れないのだろうか。



朝早くに起きて、

しのぶさんに頼まれたお萩を作って、

炭治郎…と善逸さんと伊之助さんと朝から鍛錬を積んで、

義勇さんに稽古をつけて貰って、

蝶屋敷でのアオイさんの仕事をほんの少しだけお手伝いをする。




またあの縁側の席で甘味を口にして笑い合う日々はもう、

来ないのだろうか。



あなた

っ、、…


私はあの幸せな場所へと戻っても、罰を受ける身。



(そうだとしても…)




私はあの場所に " 帰りたい " 。








生温い汗が額から流れる。
悔やむ気持ちが吐息と共に外に出て行った。



『『義勇』で良い。』


『俺はあなたの笑った顔が好きだ。』




(もっと、もっと沢山、お話、しておけば良かったです…)


折角、少しだけでも互いを知って、仲良くなれそうだったというのに。






『そういえば、炭治郎は『さん』付けないんだな。』


『そう呼んで欲しいと言って頂けたので、今頑張っている途中なんです。』


『そうか…いつか、俺の事も『さん』と付けずに呼んで欲しい。』


『へ?! そ、それは駄目です!!!』


『何故だ?』


『義勇さんは私よりも階級は遥かに上ですし、それに義勇さんと私の仲を勘違いをされてしまいます。』


『仲を勘違い…別に俺は構わないが。』


『ぎ、義勇さ…』


『何か問題があるのか?』


『っ////』


『?』





今日の宿部屋で交わした、約束。

酷く意識してしまった私は、恥ずかしさから彼の顔を真っ直ぐには見られなかった。





『…な、なら、この任務の間だけ、お呼び出来るように…頑張…ります…っ///』





その時の彼はきっと、






『ああ、待っている。』






あの優しそうな、空気にすっと溶けてしまいそうな水飴の様な匂いを漂わせながら、

少し笑って応えていたのだろう。





(結局、守、れません、でした…)


『ポロッ』

瞼を閉じた私の目の端から、涙が頬を伝って落ちる。







もし、今でも間に合うというのなら。



例え貴方の耳には届かないとしても、

その名前を私が口にする事を許されるというのなら。




その名前を──────



あなた

っ、……






呼びたい。




あなた

…ぎ、ゆぅ………

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