学校を出てすぐの歩道で「あなたが『あなたちゃん』?」と声をかけて来たのは、有名な女子校の制服を着た女の人だった。
しなやかな黒髪が風に揺れて、夕日に照らされたその姿に目を奪われる。
女の私でも見惚れてしまいそうなほどの美人さん。
だけど、いくら記憶をたどってもこんなきれいな人、知り合いにはいない。
そもそも、会ったことがあれば覚えてないわけないと思うんだけど……
頭によぎるのはこの前の、ファンの子たちとのことで。
目を細めて美しく笑う彼女から、あからさまな強い敵意は感じない。
こんな人が私を訪ねる理由なんてひとつしか考えられない。
ごく、とつばを飲みこむ。
池宮さん……はどこで聞いたのか、恋人ごっこのことを知っているみたいで。
嫌な汗がじっとり湧き出る。
……他校にも先輩のファンがいることは知ってた、けど。
彼女と自分とを比べて、もやもやした気持ちが胸を覆っていく。
その時、手元のくまが目に入って、カバンの持ち手をぎゅっと握った。
今までの私ならここで怖気づいていたかもしれない。でも……。
——先輩の隣に立って恥ずかしくない人になりたい、から……!!
自分に自信をもって堂々と「好き」って言えるように……
そのためには自分が変わらなくちゃ。
目の前をまっすぐに見つめて、一歩踏み出す。
はーっと大きく息を吐く。
声が震えて、指先も冷たくて、立ってる感覚が薄い。
不格好だけど、でも、初めて人に対して自分の思ってたことを口にすることができた。
やっと、自分の気持ちを萎縮せずに伝えられた。
先輩……!
いつかのように私のところへ駆け寄ってきてくれるかもしれない。
淡い期待を裏切るように、先輩が、目の前の池宮さんを呼ぶ。
随分と気心が知れた様子で話す二人は、どこからどう見ても美男美女で、お似合い、で。
あたまが、まっしろになる。
二人がなにか話しているけれど、なにも頭に入ってこない。
ぐるぐるめまいがして、足元がおぼつかなくて、何もかもが崩れてゆく心地がする……。
貧血を起こしたように意識が遠のいて、傾いた体を力強く支えられる。
先輩の声で意識が呼び戻される。
目の前には先輩の顔があって……。
息が止まりそうになる。
こつん、とおでことおでこがくっつく。
あまりの近さに息をのむ。このまま呼吸が止まって死んじゃいそう……!
今日ずっと浮かない気分だったのも相まって本当に体調の心配をされたみたい、だけど……。
ぺしっと先輩を小突いた池宮さんが、ぐいっと先輩と私を引き離す。
二人のやり取りを見ていると元気がなくなる。
だから、別に、体調が悪いわけじゃない。
こく、と頷く。
仲がよさそうに話す二人を見ているのがつらくて、見ていられなくて、逃げるようにその場を後にした。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!