第2話

「お恥ずかしい限りで…」
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2024/04/02 12:00
あなた
…ここはどこだ
ガサガサと草を掻き分け、私は辺りを見渡した。
夜の山はよく見えない。パルデアでも難儀した。

夜中に皆が寝静まった頃を見計らってこっそり公民館を抜け出してきた私は、村を抜け山に辿り着いていた。
そして見つけたポケモンをとにかく捕まえまくる。ステータスまでしっかり確認してパーティにうまく運用できるかまで見極めた。
あなた
(うーん…図鑑埋めちょっとずつできてきたな…ゲームだとコライドンいくらでも呼び出せるんだけど、体良く使うのも申し訳ないし…)
そこらへんにあった岩に腰掛け、図鑑もチェック。
曖昧な記憶しかないから、どれくらいで埋まるかはわからない。完全に手探りだ。
あなた
(…終わるかな、これ)
図鑑埋めは果てしないものだ。

その時、私の背後から風がサァ…と優しく吹いた。
穏やかな夜だ。
パルデアも穏やかだったけど、匂いや風の優しさは違った。
あなた
…気持ちいい…
つい声を漏らす。本当に気持ちがいい。
目を閉じ深呼吸。
その時だった。

―パキッ
あなた
っ!?
背後から枝を折る音。バッと振り返るが茂みだけで、何もいない。
けど、気配は感じた。

私はモンスターボールを手に持ち、臨戦態勢を整える。
あなた
…何ポケモン?
声のかけ方は多分間違ってると思ったけど、あまりに静かだったので何か喋りたかったのだ。
すると、茂みの中からバッと影が出てきた。
ついビックリして、身体が飛び跳ねる。
???
わわわ、ご、ごめんなさい!ポケモンじゃ…ない、です……!!
あなた
…す………スグリ!?くんっ!?
そう、目の前にいたのは

私の最愛の推しキャラだったのだ。
あなた
ごめんねびっくりさせて…はい。お茶。口つけてないから
スグリ
あ…ありがとう…
あなた
(まさか…スグリに会えるとは…!!!)
ストーリーではありえなかった展開に心躍る。
そして心の中でガッツポーズをした。
あなた
(グッジョブ!幸運な私…!)
スグリ
えっと…
目を泳がせながら、控えめに言葉を発したスグリ。
そういえば、名乗ってなかったな。
あなた
あっ、えっと…あなた、です(ひぇ〜!なんか緊張する…)
目の前にいる推しキャラ。
彼の純真無垢な瞳は、不安と緊張で揺れていた。
スグリ
あなた…さん
あなた
あなたでいいよ?
首を傾げゆるりと笑って見せると、スグリは勢いよく私から顔を背けた。
あなた
(おおう、照れておる照れておる)
スグリ
あなたの最初の一文字、あなたは…何、してたの?
あなた
あぁ…ポケモン探してたの。図鑑コンプすると先生からごほうび貰えるから…
そう言い、私はスマホロトムを取り出してスグリに見せた。
あなた
まだ10匹しか捕まえられてないけど…
スグリ
わやじゃ…図鑑…かっこいい…おれ、まだスマホロトム持ってなくて…
あぁ、そういえばそうだったな…この時代にスマホロトムを持ってないとは。
ボタンが発狂しそうな案件だ。
あなた
たしかに図鑑は便利だね〜
そんなことを思いながら、ヘラヘラと笑い答えた。
あなた
そんなスグリくんは何してたの?
スグリ
あ…おれ……あなたが家の裏の方から山さ走ってくの見えて…
あなた
えっ
なんと。確かにスグリの家の横を抜けてきた気がする。
見ていたのか…なんだか申し訳ない。
スグリ
何してるのかなって…気になって
あなた
あいやー…お恥ずかしい限りで…
スグリ
お、おれが勝手についてきたから……邪魔して、ごめん
スグリとは目が合わない。
隣にいるからなのか。正面から顔が見たいのに。
そう思って、ひたすら私はスグリを見つめた。
あなた
全然だよ!気になるよね。こんな部外者が里をウロチョロしてたら
するとスグリは驚いたようにこちらをバッと振り返った。

やっと目が合った瞬間だ。
スグリ
そんなことねーべ!今日のあなた、わやカッコよくて…
あなた
え?
スグリ
…なんでもない
急なトーンアップからのトーンダウン。
そっか、カッコいいって思ってくれたんだな。純粋に嬉しい。

嬉しさと、スグリの反応が可愛くて、私は思わず口元を緩めた。
あなた
ふふっ…
スグリ
な、なに?
あなた
かわいいなぁって思って
スグリ
え!?おれ、男…
戸惑いを見せるスグリ。
その姿すらも可愛い。
あなた
わかってるよ〜私的には褒め言葉なんだけどなぁ
スグリ
褒め…言葉…
私の言葉を重複させる。そうだよ、褒め言葉なんだ。
しかし本人はあまり腑に落ちてない様子だった。

ふと私は手に取っていたスマホロトムの画面を見た。
時間は既に0時を回っている。
あなた
スグリくん、こんな遅くに外出てへーき?人のこと言えないけど
スグリ
あ…おれ、そろそろ戻らねえと…ねーちゃんに見つかったら、怒られる
あなた
そーだよね。じゃあ家まで行こっか。私もそろそろ切り上げるし
スグリ
…え?
ポカンとした顔でこちらを振り返るスグリ。

何をそんなに驚いているんだろうか。
あなた
そんな距離ないけど…昼間あんまり話せなかったし、少しでも話したいなって。迷惑かな?
スグリ
!!!!
あなた
……スグリくん?
目を見開き顔を赤く染めるスグリ。
そしてなんとも言えないような顔で、ボソボソと言った。
スグリ
…お、俺も…話したかった、から
…え。何それ…

可愛すぎない!?!?!?
あなた
(天使だよ天使、天使が舞い降りてるよ可愛すぎるよ好きだわほんとに)
じゃ、いこっか
頭がじゃっかんバグりながらも、私はにこやかに笑って見せた。

大人の余裕というやつを見せないとね!?(1歳しか変わんないけど)
スグリ
う、うん
スグリは未だに緊張した様子だったが、私に合わせて少しだけ笑ってくれた。
あなた
じゃあ、ブルーベリー学園も寮生活なんだね〜
スグリ
うん。だからキタカミにはたまに帰ってきてて…
しばらく2人で談笑しながら帰路についていた。
時間はあっという間だった。
目の前はもうスグリの家だ。
あなた
お、着いたね
スグリ
…ごめん、送ってもらっちまって…
あなた
えっ!なんで謝るの?
スグリ
え?
あなた
私、スグリ話してて楽しかったもん!ありがとうだよっ
本当にありがとうという気持ちしかなくて
この時間が幸せだった。

スグリはそんな私の言葉を聞いて、
はにかみながら「おれも楽しかった」と言ってくれた。
あなた
(わやめんこいです…!!)
じゃあ、また明日ね。おやすみスグリくん
スグリ
うん、えっと…おやすみ
そして手を振り、スグリの背中を見送る。
途中で振り返り手を振ってくれた彼が可愛くて、ふふっと笑ってしまったのは言うまでもない。

扉がパタリと締まり、スグリの姿が見えなくなった

…瞬間、私は地面に伏した。
あなた
(可愛すぎた…!!!!!)
耐えられませんでした。もう。
あなた
(涙出るあの可愛さ…なんなん…っ…天使じゃなくて神なの?ニヤニヤしちゃうとこだった…!危ない危ない)
そして気持ちを整え立ち上がり、汗を拭う。
あなた
…楽しみだな。明日から…
明日からのオリエンテーリング。めちゃくちゃ楽しみだな。

その一方で、未来の出来事を思い浮かべて私は少し息を吐いた。
あなた
(ストーリーが進んだらきっと…こうはいられなくなるんだろうな…)
私は未来を知っている。

だから、きっと私は
彼を苦しめてしまうんだろう。
ストーリーを遵守せずに彼を守る。
その考えも、何度か頭を過ぎったのは確かだ。

でも、それだと彼はきっと成長できなくて、オーガポンも救えない。
だから私はきっと、

ストーリーを遵守する。

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