ガサガサと草を掻き分け、私は辺りを見渡した。
夜の山はよく見えない。パルデアでも難儀した。
夜中に皆が寝静まった頃を見計らってこっそり公民館を抜け出してきた私は、村を抜け山に辿り着いていた。
そして見つけたポケモンをとにかく捕まえまくる。ステータスまでしっかり確認してパーティにうまく運用できるかまで見極めた。
そこらへんにあった岩に腰掛け、図鑑もチェック。
曖昧な記憶しかないから、どれくらいで埋まるかはわからない。完全に手探りだ。
図鑑埋めは果てしないものだ。
その時、私の背後から風がサァ…と優しく吹いた。
穏やかな夜だ。
パルデアも穏やかだったけど、匂いや風の優しさは違った。
つい声を漏らす。本当に気持ちがいい。
目を閉じ深呼吸。
その時だった。
―パキッ
背後から枝を折る音。バッと振り返るが茂みだけで、何もいない。
けど、気配は感じた。
私はモンスターボールを手に持ち、臨戦態勢を整える。
声のかけ方は多分間違ってると思ったけど、あまりに静かだったので何か喋りたかったのだ。
すると、茂みの中からバッと影が出てきた。
ついビックリして、身体が飛び跳ねる。
そう、目の前にいたのは
私の最愛の推しキャラだったのだ。
ストーリーではありえなかった展開に心躍る。
そして心の中でガッツポーズをした。
目を泳がせながら、控えめに言葉を発したスグリ。
そういえば、名乗ってなかったな。
目の前にいる推しキャラ。
彼の純真無垢な瞳は、不安と緊張で揺れていた。
首を傾げゆるりと笑って見せると、スグリは勢いよく私から顔を背けた。
そう言い、私はスマホロトムを取り出してスグリに見せた。
あぁ、そういえばそうだったな…この時代にスマホロトムを持ってないとは。
ボタンが発狂しそうな案件だ。
そんなことを思いながら、ヘラヘラと笑い答えた。
なんと。確かにスグリの家の横を抜けてきた気がする。
見ていたのか…なんだか申し訳ない。
スグリとは目が合わない。
隣にいるからなのか。正面から顔が見たいのに。
そう思って、ひたすら私はスグリを見つめた。
するとスグリは驚いたようにこちらをバッと振り返った。
やっと目が合った瞬間だ。
急なトーンアップからのトーンダウン。
そっか、カッコいいって思ってくれたんだな。純粋に嬉しい。
嬉しさと、スグリの反応が可愛くて、私は思わず口元を緩めた。
戸惑いを見せるスグリ。
その姿すらも可愛い。
私の言葉を重複させる。そうだよ、褒め言葉なんだ。
しかし本人はあまり腑に落ちてない様子だった。
ふと私は手に取っていたスマホロトムの画面を見た。
時間は既に0時を回っている。
ポカンとした顔でこちらを振り返るスグリ。
何をそんなに驚いているんだろうか。
目を見開き顔を赤く染めるスグリ。
そしてなんとも言えないような顔で、ボソボソと言った。
…え。何それ…
可愛すぎない!?!?!?
頭がじゃっかんバグりながらも、私はにこやかに笑って見せた。
大人の余裕というやつを見せないとね!?(1歳しか変わんないけど)
スグリは未だに緊張した様子だったが、私に合わせて少しだけ笑ってくれた。
しばらく2人で談笑しながら帰路についていた。
時間はあっという間だった。
目の前はもうスグリの家だ。
本当にありがとうという気持ちしかなくて
この時間が幸せだった。
スグリはそんな私の言葉を聞いて、
はにかみながら「おれも楽しかった」と言ってくれた。
そして手を振り、スグリの背中を見送る。
途中で振り返り手を振ってくれた彼が可愛くて、ふふっと笑ってしまったのは言うまでもない。
扉がパタリと締まり、スグリの姿が見えなくなった
…瞬間、私は地面に伏した。
耐えられませんでした。もう。
そして気持ちを整え立ち上がり、汗を拭う。
明日からのオリエンテーリング。めちゃくちゃ楽しみだな。
その一方で、未来の出来事を思い浮かべて私は少し息を吐いた。
私は未来を知っている。
だから、きっと私は
彼を苦しめてしまうんだろう。
ストーリーを遵守せずに彼を守る。
その考えも、何度か頭を過ぎったのは確かだ。
でも、それだと彼はきっと成長できなくて、オーガポンも救えない。
だから私はきっと、
ストーリーを遵守する。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。