―翌朝
公民館の前に集まったアカデミー組。
目の前にはブライア先生と、管理人さん。
そしてスグリとゼイユがいた。
心の中で感想を言った。
本当に一睡もできなかった。ちくしょう。
大きなあくびを一つ。
その時、こちらを見つめるスグリと目が合った。合ってしまった。
焦って顔を逸らす。恥ずかしい。
チラリと横目でスグリを見ると、クスクス笑っていた。
そしてゼイユに「何笑ってんのよ」とツッコまれてる。
私はそんなスグリを見て、逆にふふっと笑った。
キュルリンと効果音が聞こえそうなほど、高い声で挨拶を始めるゼイユ。
内心めちゃくちゃツッコミを入れてみた。
そしてスグリの番。
彼は天使だった。
涙出そう。つい口元を覆った。
ぶっきらぼうに返事をするゼイユと戸惑うスグリ。
対称的な2人の姿を見て「微笑ましいなぁ」と笑みが溢れた。
そして今回の林間学校の課題についての説明が、管理人さんから伝えられた。
もちろんストーリー通りで、変わらず。
二人一組で看板を回るオリエンテーリングだった。
説明が終わり、ペアを決める時間。
すぐにでもスグリのところに走っていきたいけど、昨日のことは伏せていかなきゃな…
なんと声をかけに行こうか考えていたところで、
何故だろうか、スグリがこっちに向かってくる。
隣にはゼイユがいて、腕を組んで私を見下ろしている。
え、な、なに?
スグリは気まずそうに言った。
思わず声を大にして言ってしまった。
早いよさすがに!バレるのが!
そういうことか。それは、うん…仕方ない。
ゼイユの冷たい視線が刺さる。言い返す言葉もない。
そこまで言ってそうな勢いだったから、つい。
本当に楽しい時間だった。
思い出すだけで嬉しくて笑みがこぼれる。
照れくさそうに頬を掻きながら言うスグリ。
ゼイユはそんなスグリを見てニヤニヤしている。なんやねん。
スグリだけじゃなくゼイユにも愛を伝えないとね!
そう思い、私はゼイユの手を取り笑顔を向けた。
それは初耳だ。
ハッとした。そう、交流しなくては。私は。
でもできれば2人とも交流したい。ストーリーが進めば交流するのはわかってるんだけど…
スグリが何か言っていたが気にせず、私は2人の手を取った。
秘技!両手に花!と頭の中お花畑全開で唱える。
幸せすぎてとけそうだ。今ならどこまででも逝けそうな気さえしてくる。
多少動揺しているゼイユ。ちょっと勝った気分になってニヤニヤしてしまった。
するとゼイユは、何かを思い出したようで、「そうだ」と呟いた。
ゼイユの言葉を慌てて静止するスグリ。
残念ながらしっかり聞いちゃいました。
スグリとの勝負。
確かに、そんなイベントがあった気がしてきた。
私はバッと片手を上げ、勢いよく返事をした。
そしてゼイユにすべてを明かされ項垂れるスグリを、下から覗き込む。
スグリの目がキラキラしている。
そうかそうか、そんなに私と戦いたかったのね!
嬉しいのか、言葉になってない彼にふふっと笑みが溢れた。
そして位置につき、スグリと向き合う。
ナマけっぱるありがとう!!!!
その言葉を言うと、スグリは顔を赤くし目を丸くした。
言ってみたかったんだよね!けっぱる!
私はいつも通りのルーティンを行い、ボールを構えた。
ここからは真剣勝負だ。
ボールから出てきたパーモットを見て、スグリは「わやじゃ!パーモット…!」と呟いた。
キタカミにはいないもんね。
申し訳ないけど、強さを見せつけるのが先だ。
私のパーモットは容赦なくスグリのオタチに食らいついていった。
最後のポケモンを倒し、私は繰り出していたラウドボーンをボールへ戻した。
そして決め台詞。
私は呆気にとられるスグリの元へ駆け寄った。
ブライア先生語録が飛び出す。
その言葉でスグリはハッとした。
スグリも素直なものだ。少し照れながら言った。
ナマむぅに心を焼き尽くされながら、私はゼイユにお礼を伝えた。
突然の申し出。
少し戸惑ったけど、内心ハピハピだ。
もうだいぶ化けの皮が剥がれてるよゼイユ。
項垂れるスグリ。
いや、照れ方可愛すぎない?
渋々と私の握手に答えるスグリ。
私はもうニッコニコだ。
かくしてオリエンテーリングは、幕を開けたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。