クラスメイトの女の子たちが、メイド服をふりふりなびかせながら可愛く呼び込みをする。
文化祭。
私たちのクラスは『メイド&執事喫茶』を開いていた。
どうしよう、メイド服なんて、恥ずかしすぎる……。
制服を着てても赤いパーカーで頭まですっぽり隠して過ごしてるっていうのに、フリフリメイドなんて難易度が高すぎる。
私はすぐに赤いパーカーを羽織って、フードも深く被った。
スカートの裾だって、五分に一回くらい引っ張って足も隠す。
足を隠してると、ドンッと女性客にぶつかった。
弾き飛ばされて、思わず尻もちをつく。
女性客は私にぶつかったことも気づかず、執事の格好をしている男の子たちの方へ行ってしまった。
女性客に振り返ったのは、燕尾服を着た涼くん。
黒いジャケットに白いシャツを着て、タイも付けている。
その姿が涼くんにすごく似合っていて、涼くんが歩いているだけでも目を引いてしまうほど。
スラックスを履いた足も細いし、モデル体型みたい。
笑顔も浮かべずにオーダーを取るのは涼くんらしいけど、もっと愛想良くすればいいのに……。
そう思ったのも束の間。
振り向いて人差し指を唇にあて、少しだけ微笑む涼くん。
女性客が呼んだもう一人の人は、牙山圭くん。
明るくて優しくていつも笑顔で、クラスの女子からは『キラキラ王子』と呼ばれている。
涼くんと同じ燕尾服は明るい茶色の髪と似合っていて、接客の仕方も抜群。
でも、涼くんは瞳が大きくて少し可愛い顔をしているけど、圭くんは眉も太くて目もキリッとしていて、映画や本に出てくるような王子様のような印象。
圭くんが、女性客の傍に跪き、手を取った。
手の甲にキスするフリをして……。
……すごい。あんなにかっこいい接客ができるんだ。
私も、頑張らなくちゃ。
返事をして、キッチンの方(といっても机を並べただけなのだけど)に行ってコーヒーを注ぐ。
お盆に載せて、男性客の方へ向かった。
スカートが短いしフリフリだしで、恥ずかしい……!
フードを被っていて視界が悪いから、何かにつまずいてしまった。
あああぁっ!
このままでは転んでお客様にコーヒーをぶちまけてしまう!
そう思っていても、身体は言うことをきかずに傾いていく。
最悪な事態が頭を駆け巡る。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
その時……!
ガッと誰かに腕を掴まれ、支えられた。
ふわっと甘い香りが一瞬漂う。
腕を支えてコーヒーを零さないようにしてくれたのは、涼くんだった。
涼くんは私を立たせた後、キッチンへ戻っていってしまった。
それから二時間くらい。
私は失敗しそうになるたびに、涼くんに助けてもらっていた。
たとえば食器を割りそうになったとき。
と、落ちそうになったお皿を拾ってくれたり。
私が男性客からセクハラみたいな発言されたとき。
「お前さ、誰の許可得てこのメイド口説いてんの? とっとと帰れよ」
と肩をぐいって引き寄せてくれたり。
他にもいろいろ、助けてくれた。
そして今は、涼くんと私が休憩に入って屋上でのんびりしている。
初夏の空に浮かんだ飛行機雲。暖かい風が、私たちの頬を優しく撫でる。
私が礼を言うと、涼くんは素っ気なく返す。
でも、頬を掻いて目を逸らしてるから、ちょっと照れてるのかな?
私はくるりとその場を一周する。
ふわっとフリルが膨らみ、後ろのリボンもなびいた。
へへ、と笑いながらくるくる回る。
ふと視界の端に映る涼くんを見たら、微笑んでる気がした。
くるくる回ってスカートで遊んでいると……。
風の反動でフードが取れてしまった。
視界がぶわっと明るくなる。
その時、初めて涼くんの顔をまじまじと見つめてしまった。
俳優のように整っている鼻や、口。
少しだけ目元が柔らかくて、ちょっと可愛く見える瞳。
その瞳は大きく見開かれていて、前見た時には白かった頬は、僅かに赤く染まっていた。
私は今すぐにでもフードを被りたい。
でも、涼くんがじっと私を見つめてくる。
そう言って、涼くんは目を逸らした。
サラサラの髪から覗く耳が、真っ赤に色づいていた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。