第3話

狼王子と文化祭
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2019/02/16 07:59 更新
女生徒A
「パンケーキ食べて行きませんかー?」
女生徒B
「メイド&執事喫茶やってまーす! 良かったら来てくださーい!」
クラスメイトの女の子たちが、メイド服をふりふりなびかせながら可愛く呼び込みをする。

文化祭。
私たちのクラスは『メイド&執事喫茶』を開いていた。

どうしよう、メイド服なんて、恥ずかしすぎる……。
制服を着てても赤いパーカーで頭まですっぽり隠して過ごしてるっていうのに、フリフリメイドなんて難易度が高すぎる。

私はすぐに赤いパーカーを羽織って、フードも深く被った。
スカートの裾だって、五分に一回くらい引っ張って足も隠す。
湊香澄
「きゃっ」
足を隠してると、ドンッと女性客にぶつかった。
湊香澄
「いた……」
弾き飛ばされて、思わず尻もちをつく。
女性客は私にぶつかったことも気づかず、執事の格好をしている男の子たちの方へ行ってしまった。

女性客A
「見て!! あの二人、かっこいい~~!」
女性客B
「ほんとだ! 一人はクールな執事で、一人はキラキラしてる王道執事って感じ~!」
女性客C
「呼んでみようよ! すみませーん!」
狼谷涼
「はい」
女性客に振り返ったのは、燕尾服を着た涼くん。
黒いジャケットに白いシャツを着て、タイも付けている。
その姿が涼くんにすごく似合っていて、涼くんが歩いているだけでも目を引いてしまうほど。
スラックスを履いた足も細いし、モデル体型みたい。
女性客A
「コーヒーおかわりくださぁい」
狼谷涼
「かしこまりました」
女性客B
「かっこいいですね! ドキドキしちゃう」
狼谷涼
「ありがとうございます」
笑顔も浮かべずにオーダーを取るのは涼くんらしいけど、もっと愛想良くすればいいのに……。

そう思ったのも束の間。
狼谷涼
「お嬢様方、カフェイン接種のしすぎはお身体に悪いですから、気を付けて下さいね
振り向いて人差し指を唇にあて、少しだけ微笑む涼くん。
湊香澄
(かっこいいけど、なんかもやもやする……)
女性客A
「ねえねえ! あっちの人も呼んでみようよ!」
女性客B
「すみませーん!」
牙山圭
「なんでしょう? お嬢様方」
女性客ABC
「きゃあ~~っ!」
女性客が呼んだもう一人の人は、牙山がやま圭くん。


明るくて優しくていつも笑顔で、クラスの女子からは『キラキラ王子』と呼ばれている。
涼くんと同じ燕尾服は明るい茶色の髪と似合っていて、接客の仕方も抜群。

でも、涼くんは瞳が大きくて少し可愛い顔をしているけど、圭くんは眉も太くて目もキリッとしていて、映画や本に出てくるような王子様のような印象。

圭くんが、女性客の傍に跪き、手を取った。

手の甲にキスするフリをして……。
牙山圭
「お嬢様、どうぞ、僕に何を食べたいのかお申し付け下さい」
女性客ABC
「きゃ~~~っ!」
……すごい。あんなにかっこいい接客ができるんだ。
私も、頑張らなくちゃ。
男性客A
「お嬢ちゃーん、コーヒーおかわり頼むよ」
湊香澄
「は、はい」
返事をして、キッチンの方(といっても机を並べただけなのだけど)に行ってコーヒーを注ぐ。
お盆に載せて、男性客の方へ向かった。
スカートが短いしフリフリだしで、恥ずかしい……!

湊香澄
「お、お待たせしました、コーヒーで……きゃっ!」
フードを被っていて視界が悪いから、何かにつまずいてしまった。

あああぁっ!
このままでは転んでお客様にコーヒーをぶちまけてしまう!

そう思っていても、身体は言うことをきかずに傾いていく。
最悪な事態が頭を駆け巡る。

どうしよう、どうしよう、どうしよう……!





その時……!




ガッと誰かに腕を掴まれ、支えられた。
ふわっと甘い香りが一瞬漂う。
狼谷涼
「何してるんだよ」
腕を支えてコーヒーを零さないようにしてくれたのは、涼くんだった。
湊香澄
「涼くん……」
狼谷涼
「早くコーヒー置いてこい」
涼くんは私を立たせた後、キッチンへ戻っていってしまった。



それから二時間くらい。
私は失敗しそうになるたびに、涼くんに助けてもらっていた。

たとえば食器を割りそうになったとき。
狼谷涼
「うるさい音立てたら怒るからな」
と、落ちそうになったお皿を拾ってくれたり。


私が男性客からセクハラみたいな発言されたとき。
「お前さ、誰の許可得てこのメイド口説いてんの? とっとと帰れよ」
と肩をぐいって引き寄せてくれたり。

他にもいろいろ、助けてくれた。


そして今は、涼くんと私が休憩に入って屋上でのんびりしている。
初夏の空に浮かんだ飛行機雲。暖かい風が、私たちの頬を優しく撫でる。
湊香澄
「あの、いろいろ助けて下さって、ありがとうございました」
狼谷涼
「お前がもたもたしてるからだろ」
私が礼を言うと、涼くんは素っ気なく返す。
でも、頬を掻いて目を逸らしてるから、ちょっと照れてるのかな?

狼谷涼
「なんでお前、メイド服着てんのにパーカー羽織ってんの」
湊香澄
「だ、だって恥ずかしくて……メイド服なんて普段着ないし……」
私はくるりとその場を一周する。
ふわっとフリルが膨らみ、後ろのリボンもなびいた。

湊香澄
「でも、こうやって着てみるとすごい可愛い……。私じゃ似合わないけど、フリルがいっぱいでお姫さまみたい。
ううん、メイドだから実際はお姫さまに仕えてるんだけど……」
へへ、と笑いながらくるくる回る。
ふと視界の端に映る涼くんを見たら、微笑んでる気がした。

くるくる回ってスカートで遊んでいると……。

湊香澄
「わ……っ」
風の反動でフードが取れてしまった。
視界がぶわっと明るくなる。
狼谷涼
「…………!」
その時、初めて涼くんの顔をまじまじと見つめてしまった。
俳優のように整っている鼻や、口。
少しだけ目元が柔らかくて、ちょっと可愛く見える瞳。

その瞳は大きく見開かれていて、前見た時には白かった頬は、僅かに赤く染まっていた。

狼谷涼
「お前、フード被んない方が……」
湊香澄
「……?」
私は今すぐにでもフードを被りたい。
でも、涼くんがじっと私を見つめてくる。

狼谷涼
「フード被んない方が…………マシ!」
そう言って、涼くんは目を逸らした。
サラサラの髪から覗く耳が、真っ赤に色づいていた。

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