第88話

妹の気持ち
5,494
2021/07/29 07:26
五条(なまえ)
五条あなた
…怖かったんだ。
五条悟
五条悟
…!
俯いて拳をグッと握っていたあなたが、ボソリと呟いた。
『怖かった』とあなたは言った。あなたは何かを恐れている、と感じた自分の勘は当たっていたようだ。
 こ、わ、い
その言葉を馴染ませるように、ゆっくりと口を動かして小声で復唱した。
しばしの静けさの中、あなたが言葉を続けた。
五条(なまえ)
五条あなた
なんで兄さんが謝るの?悪いのは私なの!私が兄さんを傷つけた。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。お願いだから。私を…私を捨てないで…
あなたが、必死に、懇願するような声で早口に捲し立てた。こんなにも取り乱しているあなたを見たのは初めてだった。駄目なんだ。この子はきっと、思い詰めてしまいすぎて一人でどんどん悪い方へ思考を傾けてしまう。もとはと言えば悪いのは僕だ。『落ち着いて、あなた』そう言おうと口を開きかけたとき、再びあなたの口から言葉が放たれた。
五条(なまえ)
五条あなた
兄さんの側にいたい…
声を絞り出すようにして震えるあなたに、思わず僕は…
五条悟
五条悟
あなた、僕の目を見て?
ピクリとあなたが動きを止めたと同時に言葉を続ける。
五条悟
五条悟
僕、あなたを捨てるなんていつ言った?
何を言っているんだろう。『必要ない』と言ったのは僕の方なのに。でも、あなたを『捨てた』つもりはない。捨てるつもりもない。お願いあなた。そんなに不安げに怯えないで。
安心してほしくて作った笑顔はたぶんひきつっている。ふっと笑いかけたつもりの目は、涙で潤んでいる。駄目だよね。こんなんじゃ。ちゃんと話をしないと。
五条悟
五条悟
僕の方こそごめんね。あなたの気持ちに気が付けなくて。でも、言わないとお互いに分からないままだから。だから1つずつ本当を確かめていこう。
誤解は解かないと。分からないなら伝えあおう。兄妹僕たちはここで止まっているべきじゃない。
五条悟
五条悟
ねぇ、あなた。いつも身の回りのことしてくれてありがとう。もちろん仕事の時も、ありがとうね。
言ったは良いが、話をする順番を間違えている気がする。“ごめんね“より“ありがとう“を言うべきだと、よく聞くけれど。普段お喋りな僕でも今日は調子が悪い。だからどうしたって話なんだけど、どう言葉を続けるものかと咄嗟に思い付かない。すると
五条(なまえ)
五条あなた
兄さん…
五条悟
五条悟
…何?
五条(なまえ)
五条あなた
ビクッ…ッ!?
どうやら、優しく言ったつもりがあなたを怖がらせてしまったようだ。
いけない。言葉遣いには気をつけて言わないと…
五条悟
五条悟
…怖がらせてごめんね?
ゆっくりでいいから教えて?
五条(なまえ)
五条あなた
…私は、ずっと兄さんと一緒にいる事が、当たり前になってた。けど、あの時兄さんに『必要ない』って言われた瞬間、真っ白になった。
兄さんに会ったあの時からずっと、兄さんと一緒にいる事が当たり前になっていて、兄さんに
ずっと助けられてた。
五条(なまえ)
五条あなた
捨てられたって分かった瞬間、涙が止まらなかった。自分の感情を自覚してしまったから。だからなんだ。今まで私は人に期待されなくても捨てられてもなんとも思わなかった。そう思い込んできたのに。なのになんでこんなに苦しいのかわからなくて。今は兄さんに見放されることが怖くてたまらない。自分が必要とされないことが怖い。そして悔しい。胸を張って堂々と兄さん顔を会わせる勇気が無いことが。それが怖くて…ずっと、兄さんから…この世界からずっと避けて、逃げてた。人に捨てられる事が、想われなくなる事が、こんなにも辛いなんて初めて知ったから。
五条悟
五条悟

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