俯いて拳をグッと握っていたあなたが、ボソリと呟いた。
『怖かった』とあなたは言った。あなたは何かを恐れている、と感じた自分の勘は当たっていたようだ。
こ、わ、い
その言葉を馴染ませるように、ゆっくりと口を動かして小声で復唱した。
しばしの静けさの中、あなたが言葉を続けた。
あなたが、必死に、懇願するような声で早口に捲し立てた。こんなにも取り乱しているあなたを見たのは初めてだった。駄目なんだ。この子はきっと、思い詰めてしまいすぎて一人でどんどん悪い方へ思考を傾けてしまう。もとはと言えば悪いのは僕だ。『落ち着いて、あなた』そう言おうと口を開きかけたとき、再びあなたの口から言葉が放たれた。
声を絞り出すようにして震えるあなたに、思わず僕は…
ピクリとあなたが動きを止めたと同時に言葉を続ける。
何を言っているんだろう。『必要ない』と言ったのは僕の方なのに。でも、あなたを『捨てた』つもりはない。捨てるつもりもない。お願いあなた。そんなに不安げに怯えないで。
安心してほしくて作った笑顔はたぶんひきつっている。ふっと笑いかけたつもりの目は、涙で潤んでいる。駄目だよね。こんなんじゃ。ちゃんと話をしないと。
誤解は解かないと。分からないなら伝えあおう。兄妹はここで止まっているべきじゃない。
言ったは良いが、話をする順番を間違えている気がする。“ごめんね“より“ありがとう“を言うべきだと、よく聞くけれど。普段お喋りな僕でも今日は調子が悪い。だからどうしたって話なんだけど、どう言葉を続けるものかと咄嗟に思い付かない。すると
どうやら、優しく言ったつもりがあなたを怖がらせてしまったようだ。
いけない。言葉遣いには気をつけて言わないと…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。