私の小さいころの夢は、魔法使いだった。
魔法使いを夢見る私の父は、医者だった。
そんな優しい父は、
私の夢を決して否定しなかった。
むしろ素敵な夢だ、
と魔法の練習に付き合ってくれていた。
何回練習したって。
魔法は習得できるはずもないのに。
お父さんは優しい人だ。
でも時に、優しさは牙を向く。
早く私に現実を見ろ、と伝えてくれれば良かったのに。
そうすれば、あんなことにはならなかった。
私も.....もっといい将来があったかもしれなかった。
ま、後悔してももう何も戻ってこないんだけどね。
「タキサイキア現象」
人が危機的状況に陥った際、
周囲の出来事がゆっくり動いて見える現象。
父の頭から流れ落ちる鮮血。
イカれた方向に曲がりきった四肢。
あの感触は、今にでも夢に出てきやがる。
父が車に撥ねられたと私が認識した頃には、
父が後方へ飛ばされた数秒後だった。
もちろん、こんな呪文を唱えても
父は生き返ったりしなかった。
ま、当たり前だよね笑
ちっちゃい頃の私は馬鹿だったなぁ。
あんなテレビ番組を律儀に信じ込んじゃってさ。
小さい頃の私に耳元で叫んでやりたい。
魔法なんか存在しねえっつーの!!
んなもん存在してたらお医者サマなんていないわボケ。
救急車に乗せられ、父が死んだあの日。
家族全員がお陀仏して、虚無だけが残ったあの日。
私は死にたくなるくらいに思い知ったね。
そう、魔法は存在しない。
信じられるのは、科学と、己だけ。
その日からだっけ。
私は気がついたら科学者への道へ進んでいた。
あの時父の言う通り、医者の勉強をしていれば。
応急処置の手当を学んでいれば。
最初からかないっこない、
現実的じゃない夢を見ていなければ。
その後悔と負の思いだけが、
私を前へ、前へと進ませた。
首領の額には汗が。
そしてその手にはナイフが。
そして、そのナイフには、
私の血が。まあべっとりとへばりついている。
知ってるわクソアホ。
大天才様舐めんなよ。
首領の眉間が狭まる。
明らかに動揺している。
脳裏に、最後に話したあなたの姿が浮かぶ。
あんなに強面でいかにも殺し屋っぽかった顔つきも
段々と年相応の初々しさが出てきた。
.....嬢ちゃんはツンデレだから、直接私には言わなかったんだろうが。
「いい出会い」があったんだろうな。
そして、その出会いが嬢ちゃんを変えたんだ。
嬢ちゃん、お前が見せてくれた最後の笑顔。
私はあれを見て安心したよ。
やっぱ、お前もまだ子供なんだな笑
環境に応じて、無理に強がってる、
ただの子供だ。
だから、嬢ちゃん。
世紀の大天才様から、の最後のアドバイス!
耳かっぽじってよく聞きやがれよ?
もっといっぱい笑うよーに!
今まで出会った全ての出会いを大事に!!
幸せに、な!
ポケットからあるものを私は取り出す。
首領はそれがなにか認識すると、顔が青ざめる。
私が取り出したのは爆弾。
押せば、私と首領もろとも、施設全部がブッパされる。
あ、あとついでに私の勇姿と素晴らしさを後世に語り継いで置いてくれよね?
私のひと押しで。
施設全体が黒煙に呑まれ、
施設は爆発した。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。