涙を流せば被害者になれる。それが、小さな世界の中の理だった。実際に百瀬は、よく泣いては被害者になっていた。
だけど、私が泣いても被害者にはなれなかった。それが何故なのか、分からなかった。分からなかったけれど、嫌われているということだけは分かった。
太陽を背中に、一人校門を潜りながらぽつりと零した。
──死ね、という言葉に対してどのような思いを持ちますか?
とある授業で、そんな質問の書いてあるプリントを見た時、私は迷わず、『言ってはいけない言葉だと思います』と書いた。普通だけれど、きっと模範解答。毎日のように呟いている言葉を、言ってはいけない言葉だと書いた。とんだ裏切り行為だと思った。けれど、私にとっての精神安定剤のような言葉です。とは書けるはずもなかった。書けばきっと、何があったか教えてくれる?って聞いてくるんだ。気持ちの悪いくらいに甘い声で。
今更話すことなんて、何も無いよ。
健気にも私は、こんな日々はいつか終わると信じていた。少なくとも、高校生になる時には終わる。今私を虐めている奴らはみんな、私より頭が悪いから。高校はきっと違うところに行く。私が違うところに行ってやる。だからもう少しの辛抱だと、ずっと言い聞かせていた。
それはきっと紛れもない事実だったから、どちらかと言えば、この事実の方が精神安定剤のような存在だったのかもしれない。
だけど私は、高校生になる前に、出口を見つけることになる。
それは、私が望んでいたようなやり方ではなかった。
私かこの世界か、どちらかが終わる未来ばかりを描いていた私には想像もつかないような、そんな終わりだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!