第28話

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2024/06/02 12:08

辰哉side













無邪気な彼の笑顔に苦しくなってしまって、少し距離を取るようになった。





翔太「ふっかぁ〜」

翔太「本当に会わなくていいの?」





一人暮らしの俺の家に翔太が遊びに来ていて、そう手が動く。


まぁ、翔太は実際に声を出しているらしいけど…




好きな人の声すら聞けない俺には関係の無いことだ。












辰哉「うん、会わない」





少し躊躇いそうになったけれど、もう決めたことだった。







同じ時間を過ごせたとしても、きっと俺と彼はすれ違うだろう。

想いを伝えてすらいないのに感じるこの苦しさを堪えるほどに、俺は強くないや。





一緒にいるだけで。



照くんの声が聞こえていたら、

出会ったのがもっと早ければ、




俺がハンカチなんて落としたせいで……




なんて、何度も何度も考えては苦しくなる。






もう諦めていたはずなのに、聞こえていたら。聞こえていたらって考えるんだ。







今まで感じることのあまり無かった喪失感。



というか、感じないように自分の中へ押し込んでいた喪失感に、今になって押し潰されそうになっている。









翔太「照は寂しくねぇのかな…」





ふと、そう翔太の手が動いて、ドキリと胸が鳴った。








辰哉「俺なんかと離れて寂しくなんかないでしょ」




俺なんか、

俺なんか、、













照「辰哉さん」

照「話したいことがあります」






わざわざ店まで来てくれた時には焦った。



久々に会えた大好きでたまらない彼に、思わず馴れ馴れしくしてしまったけれど。





改まってそう言う彼に怖気付いて、手が震えた。











辰哉「なぁに?」





前にも照くんへやったはずなのに、左右に振る指の震えを全力で抑える。







照「俺ね、」



ふぅ……




指と一緒に口が動いて、俺の口から空気が漏れる。


落ち着け、落ち着け俺。
















照「辰哉さんのことが好きです」



照「俺が貴方を守りたい」






いつか教えてやった手話。




照くんが誰にやるのか考えるだけで涙が溢れそうになったけれど。







照「返事、聞いてもいいですか?」







頬を赤く染めつつも聞いてくれて、視界がじわじわと歪んでいく。



そんなの、答えはひとつに決まってるでしょ?





すぐ近くに康二がいるのに、情けなくも涙が溢れる。




とりあえず息を整えて、大きく息を吸って。









よし、答えようじゃないか。












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