鈴がカッターで切付けてくる……僕は間一髪で避けた。
逃げる……足が痛い……何度も躓きかけて、その度に心臓の音が速くなる。
夏のはずなのに喉が凍ってるように、息をする度に痛む。
やめろ、くるな、お前はもう僕たちの知っている友達じゃない。
……おかしい、ここの気温は変わらない、暑くもないはずだった。
僕の視界には、目の前の鈴の他、左に小屋がある。
砂と泥が囲み込むように小屋があり、明るいはずの頭上は、真っ白に僕の頭で塗り替えられている。
目の前の彼女はもう髪がぐしゃぐしゃに崩れていて、昨日までセミロングのストレートな髪は面影を隠すように1本1本浮いている。それが怖いほど人の変化を感じさせた。
そんな彼女は僕の母親に、姿は似ていた。
鈴はピクっと体が跳ねて、表情は先程より暗くなり顔色は白く酷かった。
少し黙り込んで、僕との目を合わすに言葉を発する。
僕の頭の中の空の色は少し落ち着き夕方の景色が見え、自分でも状況を整理しようと脳が落ち着きを取り戻したことを自覚する。
……あぁ、きっと僕は美香のことが好きだったんだ。
彼女の頭の中はいつも瑠々や僕らで埋まっていたけど、そんな所が本当に好きだった。
気づいたのが遅く、助からない彼女への悲しみと、鼓動が早くなり胸が締め付けられるほど、テンプレ的な恋の自覚をしている。
僕は今さら、この状況で、普通に恋をした。
……そういえば、好きな本があって、映画がやってたんだ。
いつか見に行きたかったんだ、絶対彼女が好きな話だから。
短く呼び、彼女と目を合わせる。
お願いだから僕を見てくれ。
「僕のお願い」
腕が痛い。
引きずる感覚はもう慣れて、真っ黒な周りを注意深く見る。
少し歩いて、手を離す。
私はすぐさま後ろに向かい、小屋の構造を見渡した。
薄汚く、私の世界では取り壊されることを検討されていた小屋だ。
中に入ると、床は今にも沈みそうで小屋自体もいつ崩れてもおかしくないほどもろかった。
1つ、不自然にそこ抜けた床がある、その床の下に斧があった。
私はそれを手に取り、小屋の後ろにすぐ生えている木を切った。
木の切り方なんて知らないけど、そこそこ太いと思ったので周りを傷つけるようにして、切った所が小さくなるように斧を打ち付け、最後は私が揺らすようにして小屋の方へ倒した。
途端、耳を刺す大きな音が響き渡り、私は彼を確かめる。
……倒れたとはいえ小さく崩れたという方が近いため、彼の顔まで、崩れた木達はかからなかった。
代わりに彼の腹を破って、鉄の生臭い臭いが辺りを包んだ。
まだ意識があった、良かった、完全に死んでなかった。
本当に可愛らしい顔。
笑えば愛嬌がもっと出て、男だろうと魅力できそうな程の小悪魔顔だった。
そばかすも似合うように見せてしまうくらい。
この顔が彼にとっては何よりも憎かったでしょうけど。
私は周辺にあったなるべく大きな石を手で掴み、彼の近くにまた来た。
さようなら、夢橋 茅くん。
私はその石を彼の顔に落として、誰かわからなくなるくらいに潰した。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!