あの日、別の患者の無残な最期を見せつけて以来、
るきなは目に見えて衰弱していった
背中の羽は、
今や彼女の小さな体を完全に覆い尽くさんばかりに巨大化し、
その純白の輝きは、
皮肉にも彼女の命の灯火を吸い取って成長しているように見えた
車椅子に座ることすらままならなくなったるきなを、
俺はベッドの上で抱きかかえていた
彼女の肌は透き通るほどに白く、
触れれば壊れてしまいそうなほど熱い
"天使病の末期症状"
俺は、彼女の背中の羽の付け根
一番深く、赤黒く脈打っている場所に触れた
俺の心の中には、どす黒い殺意が渦巻いていた
"天使病"
"愛されている自覚がない" ことが条件だが、
その成長速度は "向けられている愛の深さ" に比例する
るきなの羽の育ち方は異常だった
これまでに数多の人間を狩ってきた俺でも、
これほどまでに強大で、慈愛に満ちた輝きを放つ羽は見たことがない
一体、どこのどいつだ
家族にも、友人にも、
るきなを愛する者などいなかったはずだ
ならば、
誰かが陰から彼女を、執拗なまでに、
狂おしいまでに愛し続けているということになる
その愛が、彼女を死の淵へと追い詰めているのだ
るきなが、
震える手で俺の頬を包み込んだ
彼女の瞳には、死への恐怖ではなく、
ただ俺を案ずるような、深い、深い光が宿っていた
俺は彼女の肩を掴んで問い詰めた
嫉妬と怒りで視界が赤く染まる
だが、
るきなはただ悲しそうに微笑んで、
俺の胸元にそっと指を置いた
心臓のないはずの胸が、激痛に貫かれた
そんなはずはない
俺は死神だ
神に造られた、感情を持たない "装置" のはずだ
人間を愛する? 死神が?
それも、自らの手で狩るべき獲物を?
だが、俺が彼女の羽に触れた瞬間
確信が雪崩のように押し寄せた
羽から伝わってくる、
温かくて、苦しくて、独占したくてたまらないこの波動
それは、
俺が毎晩彼女を見つめながら抱いていた、
あのドロドロとした感情そのものだった
"あぁ、そうか"
俺が彼女を想えば想うほど
俺が彼女を他の誰にも渡したくないと願えば願うほど
俺の "愛" という名の毒が、
彼女の背中に死の翼を植え付けていたのだ
絶望に突き動かされ、
俺は彼女から手を引き、部屋の隅へと後ずさった
俺が彼女を愛することは、神への反逆である以上に、
彼女に対するもっとも残酷な処刑だった
俺が彼女を想うのをやめない限り、
この羽は成長を止めない
けれど、
俺に彼女を忘れることなど、今さらできるはずもなかった
るきなは、
ベッドから這い出すようにして俺に手を伸ばした
背中の重い羽が彼女を地面へと引きずり下ろそうとするが、
彼女は必死に俺を見つめている
彼女のその言葉が、
俺の中で張り詰めていた何かを叩き切った
"神様"
あんたが決めたルールなら、俺が壊してやる
俺が愛したせいで彼女が死ぬというのなら、
俺が死ぬことで、彼女に新しい命を繋いでやる
俺は立ち上がり、るきなを再び強く抱きしめた
彼女の背中で、
完成された純白の翼が、
審判の時を告げるように眩い光を放ち始めた













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。