第8話

No.8
10
2026/04/26 08:00 更新
るきなの背中に生えたその翼は、

もはや病の域を超えていた

部屋中に溢れる白光は、病院の壁を、

天井を、そして俺たちの境界線を曖昧にしていく




俺が彼女を愛した証であるその羽は、

彼女を天へ誘う福音ではなく、

この地上から引き剥がそうとする死の重力そのものだった


死神
死神
…るきな
死神
死神
聞いてくれ
俺は、熱に浮かされる彼女の耳元で

静かに、けれど鋼のような決意を込めて囁いた
死神
死神
明日、俺はお前の羽を狩る
死神
死神
それは神の命じられた仕事としてではない
死神
死神
お前をこの呪いから解き放つためだ
るきなは、うつろな瞳を僅かに動かして俺を見た



死神が羽を狩れば、

人間は空へと放り出される

そして落下する間に "愛している者" 受け止められなければ、

その命は砕け散る

それがこの世界の絶対的なルールだ



だが、俺は死神だ

ルール上、俺は 狩る側 であり、

地上で "受け止める側" に回ることは決して許されない



もし死神が獲物を抱き留めれば、

それは神への明確な背信行為と見なされ、

その瞬間に死神の魂は消滅する
るきな
るきな
あおい、さん、、ダメだよ
るきな
るきな
そんなことしたら、あなたが…
死神
死神
お前のいない永遠なんて、俺にはただの地獄だ
死神
死神
お前を愛して病に落としたのが俺だと言うなら
死神
死神
俺の全てを賭けて
死神
死神
お前を人間としてやり直させてやる



その時、病室の空気が凍りついた

天井から、人間には聞こえない、

地響きのような 声 が降ってくる

神の意志

俺を造り、操り、管理してきた絶対者の冷徹な警告だ



死神よ、分を弁えろ
その娘の羽は、お前の執着という罪によって肥大した
予定通りに狩り、消滅を見届けよさ
もなくば、お前の存在を今この瞬間に抹消する

俺は頭上に広がる不可視の "理" に向かって、

剥き出しの殺意を放った



頬のバーコードが、警告の赤色に激しく明滅する

体中を、魂を削り取られるような激痛が走り抜けた

神に逆らうことへの、直接的な制裁だ


死神
死神
…黙れ
死神
死神
俺はあんたらの操り人形じゃない
死神
死神
俺に心を与えたのがミスだったな、神様
俺は痛みに膝をつきながらも、

るきなの手を離さなかった



俺は知っている

神のルールには、たった一つだけ "穴" があることを



死神が自らの "核" を砕き、

その破片を人間に分け与えれば、

その人間は神の管理下から外れ、

新しい運命を得ることができる




だが、それは死神にとって、

二度と "死神" としても "霊魂" としても

存在できなくなることを意味していた
死神
死神
るきな
死神
死神
明日、お前が落ちる時
死神
死神
俺を信じて、目を閉じていろ
死神
死神
必ず、お前を捕まえてやる
るきな
るきな
蒼さん…!
るきな
るきな
行かないで
るきな
るきな
私はあなたと一緒にいられるなら
るきな
るきな
死んでも!
死神
死神
嫌だ
死神
死神
俺は…
死神
死神
お前が笑って、食べて、恋して
死神
死神
当たり前の人間として生きる姿が見たいんだ
死神
死神
俺がいない世界でも
死神
死神
お前はもう一人じゃない


俺は彼女の額に、誓いの口づけを落とした



窓の外では、

満月が不気味なほど白く輝き、最後の一日が終わろうとしていた

頬のバーコードは、

すでに真っ黒に焼け焦げている

俺の "死神" としての時間は、もう長くは持たない。



 "明日"

俺は愛する人を殺し、

そして、愛する人を救うために消える




それが、

一人の男として俺が選んだ、最初で最後の自由だった

プリ小説オーディオドラマ