るきなの背中に生えたその翼は、
もはや病の域を超えていた
部屋中に溢れる白光は、病院の壁を、
天井を、そして俺たちの境界線を曖昧にしていく
俺が彼女を愛した証であるその羽は、
彼女を天へ誘う福音ではなく、
この地上から引き剥がそうとする死の重力そのものだった
俺は、熱に浮かされる彼女の耳元で
静かに、けれど鋼のような決意を込めて囁いた
るきなは、うつろな瞳を僅かに動かして俺を見た
死神が羽を狩れば、
人間は空へと放り出される
そして落下する間に "愛している者" 受け止められなければ、
その命は砕け散る
それがこの世界の絶対的なルールだ
だが、俺は死神だ
ルール上、俺は 狩る側 であり、
地上で "受け止める側" に回ることは決して許されない
もし死神が獲物を抱き留めれば、
それは神への明確な背信行為と見なされ、
その瞬間に死神の魂は消滅する
その時、病室の空気が凍りついた
天井から、人間には聞こえない、
地響きのような 声 が降ってくる
神の意志
俺を造り、操り、管理してきた絶対者の冷徹な警告だ
俺は頭上に広がる不可視の "理" に向かって、
剥き出しの殺意を放った
頬のバーコードが、警告の赤色に激しく明滅する
体中を、魂を削り取られるような激痛が走り抜けた
神に逆らうことへの、直接的な制裁だ
俺は痛みに膝をつきながらも、
るきなの手を離さなかった
俺は知っている
神のルールには、たった一つだけ "穴" があることを
死神が自らの "核" を砕き、
その破片を人間に分け与えれば、
その人間は神の管理下から外れ、
新しい運命を得ることができる
だが、それは死神にとって、
二度と "死神" としても "霊魂" としても
存在できなくなることを意味していた
俺は彼女の額に、誓いの口づけを落とした
窓の外では、
満月が不気味なほど白く輝き、最後の一日が終わろうとしていた
頬のバーコードは、
すでに真っ黒に焼け焦げている
俺の "死神" としての時間は、もう長くは持たない。
"明日"
俺は愛する人を殺し、
そして、愛する人を救うために消える
それが、
一人の男として俺が選んだ、最初で最後の自由だった













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。