第3話

No.3
27
2026/04/16 08:00 更新
その夜、

病室に足を踏み入れた俺を待っていたのは、

るきなの苦悶に満ちた呻き声だった
るきな
るきな
…っ
るきな
るきな
ぁ…あおい、さん…
シーツを握りしめ、背中を丸めて震える

彼女その背後では、

薄い入院着を内側から引き裂いて、

純白の羽がその鋭い骨組みを露わにしていた


あの日、

産毛のようだった芽は、

今や凶器のような美しさを湛えた "翼" へと変貌しつつある


死神
死神
るきな!
死神
死神
動くな、今…
駆け寄り、彼女の体を抱きしめる

人肌の熱が、死神である俺の冷え切った腕に伝わってくる

るきなは俺の胸に顔を埋め、途切れ途切れに声を漏らした
るきな
るきな
痛い…
るきな
るきな
背中が、裂けるみたいに
るきな
るきな
どうして、私、何も悪いことしてないのに…
死神
死神
…これは、愛の痛みだ
俺は彼女の背中の羽を、憎しみを込めて見つめた



 "天使病"

この病の最も残酷な点は、

本人が孤独であればあるほど、

羽が健康を奪い、美しく成長していくことだ
死神
死神
誰かが、お前を狂おしいほど愛している
死神
死神
その愛がお前の拒絶と反応して
死神
死神
体を蝕んでいるんだ
るきな
るきな
っ…そんなの嘘よ
るきな
るきな
私を愛してくれる人なんて
るきな
るきな
どこにもいない…
るきな
るきな
お父さんもお母さんも、
るきな
るきな
あいつらだって…
るきな
るきな
誰も私を見てなんかいなかった!!
るきなが叫ぶ

その絶望に呼応するように、羽がいっそう輝きを増した

俺は周囲を見渡した

この病室に、彼女を想う誰かの気配はない

花瓶の花は枯れ、見舞いの品一つ置かれていない

それなのに、なぜこれほどまでに羽は育つ?


神の理ルールは絶対だ

愛の供給源がなければ、羽は生えない
死神
死神
…っ
ふと、自分の指先を見た

るきなの髪に触れ、

彼女の涙を拭い、彼女の孤独を埋めているこの指


 "まさか"

俺は死神だ

神に造られ、感情など持たないはずの執行人だ
そんな俺が、

一人の人間に向ける執着が "愛" としてカウントされているというのか?



もしそうなら、彼女を殺そうとしているのは…

るきな
るきな
…あおいさん
るきな
るきな
行かないで、一人にしないで
るきなが俺の服の裾を強く掴んだ



その瞳には、

かつての "諦念" ではなく、

俺への "切実な依存" が宿っていた

死神
死神
…行かない
死神
死神
どこにも行かないさ
俺は彼女を強く、壊れるほど抱きしめた

俺の愛が彼女を壊すというのなら、

いっそこのまま、世界から二人だけで消えてしまいたかった


だが、俺の耳には聞こえていた

天上から響く、冷ややかな神の鐘の音が

月一の "仕事" の刻限が、すぐそこまで迫っていた

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