その夜、
病室に足を踏み入れた俺を待っていたのは、
るきなの苦悶に満ちた呻き声だった
シーツを握りしめ、背中を丸めて震える
彼女その背後では、
薄い入院着を内側から引き裂いて、
純白の羽がその鋭い骨組みを露わにしていた
あの日、
産毛のようだった芽は、
今や凶器のような美しさを湛えた "翼" へと変貌しつつある
駆け寄り、彼女の体を抱きしめる
人肌の熱が、死神である俺の冷え切った腕に伝わってくる
るきなは俺の胸に顔を埋め、途切れ途切れに声を漏らした
俺は彼女の背中の羽を、憎しみを込めて見つめた
"天使病"
この病の最も残酷な点は、
本人が孤独であればあるほど、
羽が健康を奪い、美しく成長していくことだ
るきなが叫ぶ
その絶望に呼応するように、羽がいっそう輝きを増した
俺は周囲を見渡した
この病室に、彼女を想う誰かの気配はない
花瓶の花は枯れ、見舞いの品一つ置かれていない
それなのに、なぜこれほどまでに羽は育つ?
神の理は絶対だ
愛の供給源がなければ、羽は生えない
ふと、自分の指先を見た
るきなの髪に触れ、
彼女の涙を拭い、彼女の孤独を埋めているこの指
"まさか"
俺は死神だ
神に造られ、感情など持たないはずの執行人だ
そんな俺が、
一人の人間に向ける執着が "愛" としてカウントされているというのか?
もしそうなら、彼女を殺そうとしているのは…
るきなが俺の服の裾を強く掴んだ
その瞳には、
かつての "諦念" ではなく、
俺への "切実な依存" が宿っていた
俺は彼女を強く、壊れるほど抱きしめた
俺の愛が彼女を壊すというのなら、
いっそこのまま、世界から二人だけで消えてしまいたかった
だが、俺の耳には聞こえていた
天上から響く、冷ややかな神の鐘の音が
月一の "仕事" の刻限が、すぐそこまで迫っていた













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!