消灯時間を過ぎた病室
るきなはベッドの上で上体を起こし、
暗闇の中に立つ俺を見て、
少しだけ嬉しそうに目を細めた
この一週間、俺は毎晩ここへ通っていた
仕事ではない
ただの "暇つぶし" だと自分に言い聞かせながら
彼女はクスクスと笑い、
ベッドの端を叩いて俺を促した
俺は溜息をつき、
本来なら死神が触れられないはずのシーツの上に腰を下ろす
俺の問いに、
るきなの表情が少しだけ曇った
彼女は自分の細い指先を見つめながら、ぽつりと呟く
"透明"
それは俺と同じだ
存在しているのに、
誰にも認識されず、誰の記憶にも残らない
俺は無意識に、
彼女の背中に手を伸ばした
入院着の上からでもわかる
あの日よりも、羽の芽は確実に大きく、硬くなっている
天使病は、
"愛されている" という事実を、
本人が "毒" として拒絶するからこそ発症する
彼女をこれほどまでに深く愛している "誰か" がいるという事実に、
俺の胸の奥がチリりと焼けるような感覚を覚えた
"蒼"
初めて、
自分に固有の響きを与えられた気がした
神の管理番号ではない、彼女だけの呼び名
俺は突き放すように言ったが、
心臓のない胸が、またあの日と同じように脈打った
俺たちは、それから夜が明けるまで語り合った
俺は彼女に、
人間が見ることのできない "世界の裏側" を教えた
夜の雲の上を走る風の色や、月光が水面に溶ける時の音
彼女は俺に、
人間が感じる "心の痛み" や、
微かな "希望" を教えた
るきなと過ごす時間は、
死神として生きてきた永遠のような孤独よりも、
ずっと濃密だった
窓の外から朝の光が差し込み、彼女が眠りにつく頃
俺は、彼女の背中の羽にそっと唇を寄せた
それは、
死神としての冷酷な宣言であり、
同時に、
一人の男としての、歪んだ愛の誓いだった
だが、この時、俺はまだ気づいていなかった
彼女の病を加速させている "愛" の正体が、
一体何なのかを。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!